Short story

□snow white
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雨が降る中、街はクリスマス一色に彩られ、大通りはカップル達が往来しどうにも居心地が悪い。自分はというと、大学からの帰り道を歩きながら、彼女と過ごすという理由で今日の誘いを断った友人を恨んでいた。

「(サボもルフィも用あるっつってたしな〜、おれだけひとりかよちくしょう)」

元来、時間を持て余すことが苦手なおれは、クリスマスをひとりで過ごすというよりは、暇だというこの状況が苦痛で仕方なかった。


「なにしてるのポートガス」
「!……なんでこんなとこに居んだよ」
「暇そうなところ、声をかけてあげたのになーに?その言い草。貴方はもっとわたしに感謝した方がいいと思うの」

現れたのは同じ大学の友人、未満。友人の友人というやつだ。

「クリスマスにひとりですか」
「そのまま返すわ」
「おれはこれから予定あるし」
「隠し事が下手にも程があるみたいだけど」
「………」

友人未満の彼女は、おれの苦手なタイプだった。頭が良くて成績は常にトップ。人を見下したような物言いと冷徹な瞳に、近寄りがたい何かを感じていたのだ。


「確かに予定はねェ!それは認める。だがおまえだってひとりなんだろ?ナナシ」
「ええそう、ひとり。ほんとは予定があったんだけどね、潰れちゃって」
「彼氏?」
「……彼氏、みたいなひと」

度々、校内で流れる彼女の売春やらそういった類の噂はどうやら真実だったようで。おれは呆れたように溜息をつき、むにっと少し悲しげな彼女のほおを抓る。

「……いひゃいわ」
「おまえ何でそんなんなの」
「なにが」
「は〜〜、サボといいおまえといい。頭いいやつってみんなバカなのな」
「バカって…貴方にだけは言われたくな、」
「そういうとこ」

ちょっと来い、そう言って彼女の手首を半ば無理やり引っ張る。ショーウィンドウの前を駆け、路地を抜け出るとそこに広がっているのは、障害物ひとつない広場。


「………エース、っなんなの?」
急に走り出して、と運動慣れしていない彼女は若干屈みながら息を整える。

「天気予報で言ってた。今日の雨は、20時過ぎくらいに雪に変わるって」

空を見上げると、予報通り、確かに降っていた水滴は白い結晶へと変わっていた。彼女は目を丸くしながら、ゆっくりと両手を器のような形にして雪を捉える。


「……今年、初めて見たわ、雪」
「デートの度見てんのかと思ってたよ」
「こんなの、見れないところにいつも居るから」
「……」
「……とってもきれい」


木々のイルミネーションが点灯する中、雪たちはゆっくりと舞いおれと彼女の身体を囲う。


「(…………笑った、)」

そんな顔は、知らなかった。柔く下がった目尻と、弧を描く無垢な唇。まるで生まれて初めて雪を見たというようなあどけない表情に、おれは初めて、彼女にある感情を抱いた。



「なに?エース」
「や、可愛いと思って。」

彼女は余裕そうな笑顔を浮かべ、おれの目の前へと歩いてくる。

「バカにしてるの?それとも、」
「……」
「……わたしのこと口説いてる?」


ああやっぱり、おれは彼女のことが苦手なようだ。今日はせっかくの聖夜だというのに、簡単に心を乱され、イルミネーションにもクリスマスツリーにも目が行かず。


「……うん、口説いてる」

触れてみた右手が拒まないことをいい事に、彼女との関係を進めてしまおうだなんて考えるおれは、誰がどう見ても、どうかしている。

End.


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