Short story

□blind date
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ピコン

「!(もしかして……)」

< hey It's finally tomorrow! >
( よう!ついに明日だな〜! )
表示されたロック画面には、彼の名前とメッセージの通知。つい口元が緩み、顔が綻んでしまう。

< Luffy, don't you be late? >
( ルフィさん、遅刻しないでね? )
< I often go there. It's all right :) >
( よく行く店なんだ。大丈夫!)

こうしてメッセージのみのやりとりをし始めて2週間程が経った。明日はついに彼と対面し、正式なデートをする日。紹介してくれた友人の言った通り、画面越しでもわかるくらい自由気ままで純粋な人。

胸の高鳴りは留まらず、いつもより高めのパックで肌を潤した後、布団へと潜り込んだ。


________

彼と約束した場所は、海沿いにあるオープンカフェ。爽やかな海風と、広い青空が心地よく。腕時計を確認しながら、看板の前で彼を待つ。

そんな時、ピコン、と通知音が鳴った。

< Sorry! I'm a little late! >
( 悪ィ!ちょっと遅れる! )

そんな気はした、と笑いながら溜息をつき、了解と返信。先に入っていてとの事だったので、言われた通り案内されたテラス席へ。


「気持ちいいなあ……」

彼は一体どんな風に笑うのだろう。どんな髪色なんだろう。瞳は?身長は?知りたいことがたくさんあった。いつ彼が来てもおかしくないこの状況で、緊張しないわけがなくて。

なびく髪を耳にかけてじっと海を見つめていれば、恐らく彼であろう声と足音が聞こえてきた。

「お!居た!やっとみつけた!」
「!」

大きく椅子を引き、若干こちらへと前のめり気味で勢いよく座る彼。笑顔や雰囲気は、メッセージのやりとりのままで、一瞬にして安心してしまった。

「遅くなってごめんな〜!おれの兄ちゃん達が服はこれにしろあれにしろってうるさくてよ〜!」
「……ふっ」
「ん?」
「ふふ、この数十秒でルフィさんの色んな顔が見れたからなんだかおかしくって、笑ってごめんなさい」

口元に小さく手を当ててそう笑うと、少し首を傾げるも、まあいっか、と彼も笑う。

「ここおれのお気に入りなんだ!」

海を背景に笑う彼は、誰よりも青い海と空が似合う青年だった。それから何時間か、互いの話をし、そんなつもりではなかったのに、どんどんわたしの心は彼へと傾いていく。

「お気に入りの場所を教えてくれてうれしい、ありがとう。じゃあそろそろ、」
「なあナナシ、少し遊んでこう!」
「えっ?」

今日は夕方まで、そういう約束だった筈なのに、立ち上がった瞬間手首を掴まれる。

彼といる間は、綺麗なワンピースも高いヒールも、整えた爪も関係ないようで。成人済みの男女が二人で何をしているのだ、と言わんばかりにオープンカフェから飛び出すように駆け、海辺ではしゃぐ午後4時半過ぎ。

「やっぱ海は気持ちいいなあ!」
「ちょっとルフィさん、服濡れちゃうじゃない!」
「あはは!おれも!すげェびしょびしょ!」

その笑顔が眩しくて、体温が一気に上がる。ヒールを脱ぎ捨て裸足のまま、彼の元へと小さく駆け寄れば、いいなそれ、と彼もまた靴を脱ぎ裸足に。


「ほんとにあのやり取りのままね、貴方」
「そうか?」
「ええ、思った通りの人だったわ」
「おれも同じこと思ってたぞ!あ、そうだ今度はあっちに、」

言いかけたその時、彼に突然ぐいっと引き寄せられる。

「へ、」
「あぶねェ……この辺でスポーツやってる奴らも多いからたまに飛んでくんだよな〜〜硬めのボール」

彼が目をやった先にはたしかにボールが落ちていた。急に身体が接近した事により脳が追いつかず、お礼の言葉がなかなか出てこない。

「あ、……あ、あの、ありがとう…」
「気にすんな、あっち行こうぜ!」

当たり前のように引かれた手から、わたしの体温は伝わっていないだろうか。もし伝わっていたとしたら、彼にこの気持ちが伝わってしまっているのではないだろうか。

彼はわたしを、どう思っているのだろうか。


「ルフィさん」
「んー?」
「わたし、今日、というか今、すごく、たのしい」
「?おう!おれもだ!」
「……だからね、その、」
「また会いてェ!おれ、ナナシのこともっと知りたくなった!」

こちらへ振り返る彼の顔が夕日に照らされ、キラキラと一層輝いて見えた。わたしの言葉を遮り、わたしが言おうとしていた言葉を被せてきた彼に、最後まで心臓の音は鳴り止まず。


画面越しの彼よりも、今目の前に居る彼に、
ゆっくり、ゆっくり、惹かれていく。



End.

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