Long story
□【1】
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prrr prrr prrr
「っだあああ!うるせェ、サッチ!今日のパーティーにゃ行かねェって言ってんだろ!何度電話かけてきてもおれの決意は変わらねェからな!」
「ゴホン、お早うポートガス」
これ程、着信音が鳴った後すぐにスマホ画面を確認しなかったことを悔やんだ事はない。電話越しに居るのは、同僚のサッチではなかった。
「………ベ、ベックマン」
「仕事の話だ。いいか?」
「…ああ」
彼はベン・ベックマン。おれが所属しているニューゲートファミリーの取引相手、レッドファミリーのNo.2だ。一時期は敵勢力となる相手であったが、今はボス同士の気が合い、手を組むまでとなっている。
「今夜のパーティーに今おれが狙ってるターゲットの令嬢が参加する。近付けるか?」
「レッドファミリーの頼み断ると後からマルコがうるせェしな〜、わかったよ、写真送っておいてくれ。後で確認する」
「ああ、頼んだぞ」
おれはスマホを尻ポケットに入れ立ち上がり、結局行く羽目になっちまった、とぼやきながら伸びをし屋敷を後にした。
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「で、結局参加すんのかよ」
「仕方ねェだろ、仕事だ」
「ついでだし楽しんでこいよ、なあサボ」
「楽しそうだな、サッチさん。どうしたんだよエース、さっきから浮かない顔で」
相棒でもあり、兄弟でもあるサボは、おれの肩に大きく腕を回す。
「まだパーティーは嫌いか?」
「大嫌いだね。こんな金持ちの馬鹿どもの集まり、何が楽しいんだか」
「まあそう言うなって。ボスにも少しハメ外して来いって言われてんだし、今日は女の子を持ち帰るだけだろ?おまえにだったら簡単簡単、さ、行こうぜ相棒」
「おまえ他人事だからって…!」
サボは楽しそうに笑いながら組んでいる肩を叩き、足を踏み出す。おれは気乗りしないままため息をつき、笑顔で手を振っているサッチに中指を立て仕方なく会場へと歩みを進めた。
大きな音楽にアルコールの香り、ドラッグの数々、若い男女が賑わっている会場内は入った瞬間から居心地が悪かった。
「おいエース、あの子、」
しっかりウイスキーを片手に持ちつつも、顔をくいっと小さく上に動かし、ある女性を指すサボ。おれは写真と見比べ、流石兄弟、とその肩を二回叩き、ジャケットを整えながら少し早歩きで彼女の元へ。
彼女が丁度よくひとりで、目の前に立っている。おれは平静を装い、ポケットに両手を入れて溜息をついた。
「…あー、参ったな。」
「…どうしたの?何か、困り事?」
資料にあった通りだ、彼女は人柄がよく、困った人間を放っておけない性質。流石ベックマン、よく調べ上げている。
「あ、いや、大したことじゃないんだ。個室の場所わかるか?煙草吸いたくて」
「それならこっちに。確か二階が自由に使っていい部屋だった筈よ」
彼女は狙い通り、2階の廊下までおれを案内する。クン、と鼻に意識を持っていけば、彼女の香りから何のドラッグをどれほど使っているか、容易にわかった。
「(覚醒剤、ね。)」
「!やだごめんなさい、あの、すぐ出て行くわ!あはは、し、失礼」
彼女は部屋の扉を開けたかと思うと、すぐに閉めて苦笑を浮かべる。どうやら、アルコールで酔った男女が”お楽しみ中”だったらしい。
「……こ、こっちの部屋ならきっと空いてるわ、ほら」
まるで無かったことにするかのように笑い、彼女は角の部屋へと移動する。
「角部屋の方が勝手がいいな。」
「お部屋ならどこでも一緒でしょ?」
「……それもそうだ、おれはディック。君の名前は?」
「ナマエよ。よろしく、ディック」
「廊下冷えるな、ちょっと中入って話さない?」
小さく口角を上げ、腰に手を添えれば意味が通じたのか彼女はまるで悪戯な小悪魔のように笑顔を見せ何も言わずに部屋へと入っていった。
そこからは容易な事で、彼女をモノにすればいいだけ。扉を片手で閉め鍵をかけると同時に、待ちわびていたかのようにその唇を激しく奪う。
「……パーティー中、ずっとわたしを?」
「タイミング伺ってたとかダサいこと言わすなよ」
「ふふ」
ベッドへと雪崩れ込み、彼女の心を奪い取るためだけのセックスが始まる。彼女も相当、ドラッグやアルコールで頭の中を乱されているようで、簡単に心への侵入を許してくれた。
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「……ん、おはようディック」
「はよ、昨日はどうだった?」
「最高の夜だったわ、貴方は?」
「おまえしか見えなかった」
目を覚まし、彼女の唇に小さくキスを落とすと恥じらうような素振りで笑う。
「じゃあねディック。また会える?」
「スティール通りの14番地。今週の土曜におれんち来て」
「!ええ、楽しみにしてる」
もう一度キスを交わし、楽しそうに部屋から去って行く彼女の背を見送りながらスマホを手に取る。
prrr prrr prrr
「お疲れ様です」
「お疲れ。悪い、スティール通りの14番地の空き家、買っといてくれるか?今週の土曜までに4年半は住んでるって感じの仕上がりで頼む」
「了解です。」
おれはベッドにドサッと倒れるように背をつき、疲れた、と天井に息を吐いた。
―――
「貴方の顔、覚えたわ。ポートガス・D・エース」
クス、と笑いナマエはスマホを耳に当てる。
「任務は順調か?ナマエ」
「当たり前でしょ。わたしがしくじるなんてありえない」
早く迎えを寄越して、それだけ告げた彼女は電話を切り振り向いて、再度まだ彼の居る会場の一室を見つめた。
End.