ライラックを君に
□第一章
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じめじめと湿気った壁紙
水を含んでぐしょぐしょの破れたマットレスに一人の子どもが蹲っている
肌を刺すような寒さで、部屋の中は薄い氷の膜が出来て、触れると肌が張り付く
少女とも少年ともとれないその子どもはボロボロの布にくるまり俯いている
華奢というには、あまりにも細い
栄養失調気味の貧相な身体とアンバランスな膨れた腹部が布越しに見てとれる
短く切られた黒い髪はバラバラで、東洋混じりの顔は薄汚れている
そんな一室に老人がどこからともなく現れた
後方に中年の女を従えている
子どもはいきなり現れた大人に驚きもしない
否
驚く気力もないのだ
それでも警戒心を露わにするその様子はまるで野犬や、手負いの獣のようだった
老人はそんな子どもの様子や、汚れた床など気にせずに膝をつき、おおよそその年齢の子どもがするような目ではないそれを見つめた
《君は、ホグワーツ魔法魔術学校に入学が許可された。さぁ、わしらと共に向かおう》
老人は手袋を外して右手を差し出した
子どもがいつも耳にしていたスラングとは違う綺麗なイギリス英語
朦朧とする意識の中に、老人の手の温もりだけが残った