長い夢「何度でも恋に落ちる」

□掘り出し物
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「10冊くらいなら私も持てるけど?縛ったほうがいい?」
積まれた本を見て名無しさんがそうマルコに聞くと、

「いや。おまえがそんだけ持てるなら問題ねぇ。」
とマルコが返した。

「大丈夫か?後で取りに来ても構わねぇぞ。」
心配そうに店主が再び二人に声をかけたが、マルコが両肩に数十冊ずつ担ぐと、残りを名無しさんが片腕に担いだ。

「頼もしいねぇ。…もしかして、あんたら、白ひげんとこのかい?」
店主のセリフにマルコと名無しさんが顔を見合わせると、

「安心しな。ここは白ひげの縄張りになって喜んでる人間が大半だ。それまでひどかったからな。こうやってまともに金を払っていく海賊がいるなんて、昔は考えられなかったからな。」
と言って店主はニヤッと笑った。

「ありがとうございます。また、来るかも。」
名無しさんがそう店主に声をかけると、

「おぅ。姉ちゃんならいつでも大歓迎だ。」
と言って店主は片手を挙げた。
本を担いだ二人が並んでモビーに向かう。

「よかった。欲しいのが結構あって。持ってるのばっかりだったら、逆にあんな値段で売られてるの見つけちゃうとショックじゃない?」
名無しさんがそう言うと、

「確かにな。」
とマルコも満足げに笑った。

「で?これ、どこに置くの?マルコの部屋に置いたらそれこそ床が抜けるよ〜。」

「…医務室とオレの部屋、あと、ナースルームに分散するよい。」

「あ、そ。」
嫌味のつもりで言ったものの、すでにその対応を考えていたマルコに普通に返されてしまった名無しさんが不満気に返事をする。しばらく二人は無言で歩いていたが、ふと、マルコが口を開いた。

「貸しができちまったな。」
名無しさんはチラリとマルコを見る。

「おまえにこんな掘り出し物を見つけてもらった上に、船まで運ばせたら高くつきそうだよい。」
正直なところ、マルコとしては感謝の気持ちの方が大きかったが、素直に「お礼になんか奢ってやるよい」と言うのも照れくさくてこんな言い回しをしただけだった。だから、マルコとしては「そうね〜。今日の飲み代、マルコ持ちね。」なんて不敵に笑う名無しさんを想定していた。
しかし、名無しさんは

「別に、マルコのためじゃないよ。これは親父と仲間のために使うもんなんだし。」
と前を向いたまま答えた。
拍子抜けしたマルコが、「いやいや、そうは言っても…」と思わず素直に感謝の気持ちを伝えようと口を開いた瞬間、

「ま、でも。どーしても奢って感謝の気持ちを伝えたいって言うなら、この後一杯付き合ってあげてもいけど?」
と名無しさんが不敵な笑みを浮かべた。

「一瞬でもおまえを謙虚だと思ったオレの浅はかさを悔いるよい。」
口をへの字に曲げてマルコがそう言うと、

「そう?謙虚じゃない?あの医学書を正価で買った金額考えたらもっといろいろ言ってもいいくらいだけどなー。」
と満面の笑みで名無しさんが答えたもんだからマルコは慌てて

「あー。はいはい。とっても感謝してるよい。この後一杯奢らせてくれよい。」
と素直に感謝の意を伝えたのだが。

「えー。一杯?あ?いっぱい?」
と言った名無しさんに、もうこれ以上余計なことは言うまいと口を閉じると、モビーに向かう足を速めた。


翌日、眠そうな顔で食堂で朝食を食べるマルコの横にサッチが座った。

「よぉ、マルコ。眠そうだなぁ。」

「ああ。飲み過ぎたよい。」
そう言ったマルコに、サッチは

「それだけじゃねぇんじゃねぇの?」
と言って、ニヤリと笑った。

「あ?どういう意味だい?」
不思議そうにするマルコの肩にサッチは腕を回す。

「昨日の夜、頑張りすぎたんじゃねぇのかって言ってんだよ。」

「…。何を?」
ますます意味が分からない、という顔をしたマルコに、サッチはマルコの肩をバシバシと叩きながら、

「しらばっくれんじゃねぇよ!見たぜ!名無しさんと寄り添って飲んでんのをっ!」
と言って豪快に笑うが、サッチの「寄り添って」発言を聞いたマルコは、眉間に皺を寄せた。

「しかもよぉ、オレはその後もしっかり見たんだぜ?」

「あ?」

「抱えるみてぇに名無しさんを部屋に運んでたじゃねぇかよ。」
ニヤリと笑うサッチに、マルコは眉間の皺をさらに深くさせると、大きくため息をついた。

「で?その後はどうなったんだ?」
ニヤニヤと笑うサッチをさも鬱陶しそうに見たマルコは、

「その後どうなったかって?」
と小ばかにしたようにサッチを見ると、

「まだ飲み足りねぇとかほざくバカヤロウをベッドの上に転がした瞬間、気持ちよさそうに寝息を立てて寝ちまったよい。」
と言って、グラスの水を飲み干した。

「…え?」

「オレだって散々絡まれて飲まされてグダグダだったから、そのまま自分の部屋に戻って爆睡だよい。」

「いやいやいや…。マジ?何もなかったの?」

「あるわけねぇだろい。」

「でもよ、居酒屋ではなんだか…。」

「おまえの見た『寄り添ってる』は飲みの中盤の頃なら『喧嘩売られてる』或いは『絡まれてる』で、もし、終盤の頃のを見たのなら『半分寝ちまって、オレに寄り掛かってる』って言うのが正しいんだよい。」
ポカンと口を開けたサッチが次の言葉を発する前に、マルコは

「そもそも。たとえお互いが素面だったとしても、あいつ相手に何かが起きるわけねぇだろい。ったく、あの女、人の金だと思って容赦なく飲みやがって…。」
と文句を言うと、高い酒ばっかり飲みやがってとか酒が入ると質が悪いだのと愚痴りだした。
しばらくサッチはそんなマルコをじっと見ていたが、大きくため息をつくと

「せっかく今晩の酒の肴ができたと思ったのによぉ…。つまんねぇなぁ…。」
とぼやきながらも、そういやぁ自分も酔った名無しさんにからまれまくったことが何度もあったな、と思い出して、妙に納得したのだった。
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