続いてる夢

□聞かれていたのは
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結局あの後は「前祝だ〜!」とかって騒ぎだしたエースが馬鹿みてぇに飲んで大騒ぎになった。まぁ、あんな形でさらし者にされたものの、あいつらがオレを応援してくれているからだってことも、つまりはオレと名無しさんがつきあうことも認めてくれたってこともわかっていたから悪い気はしなかった。何より、あれだけ全員がオレらのことを「いい雰囲気だ」と認めた事実が、オレの背中を押してくれた。

翌朝も、多少酒は残っていたが、気分はよかった。
食堂に入ると、昨日まさに話題になっていた人物の背中を見つけた。トレイを見れば珍しく軽めの食事ばかりだから、こいつも昨日は結構のんだのか、なんて思いながら近づいていく。

「何朝から辛気臭ぇ顔してんだよい。」
そう言いながら名無しさんの前に座ると、いつになく仏頂面の名無しさんが

「二日酔いです〜。」
とだるそうに返事をした。

「ハハっ。昨日はみんな飲みまくってたからねぃ。次の島まで酒がもつか心配だよい。」
そう言ったオレをちらっと見ると名無しさんは、

「次の上陸はいつなの?」
と聞いてきた。

「あと1週間くらいだよい。」
そう答えてから、今なら「一緒に島を回らねぇかい?」って自然に言えるんじゃねぇか、なんて思った瞬間だった。

「そっか。ご馳走様。」
名無しさんはそうそっけなく答えて手を合わせると、すっと立ち上がった。完全に不意を突かれたオレはそのままトレイをもって去る名無しさんの後ろ姿を眺めていた。
きっと二日酔いで気分が悪いんだろう。なんか釈然としないものを感じたが、オレは自分にそう言い聞かせると、食事を続けた。


それからは違和感しかなかった。
最初こそあんなこともあって、オレが意識しすぎてるんじゃねぇか、とか、焦っているから感じる違和感なんじゃねぇかなんて思いもしたが、やっぱり何かがおかしかった。名無しさんとの会話がめっきり減ったのだ。食堂での食事の時や、あいつが甲板で涼んでいたりする時とか、今までは声をかける機会がたくさんあったのに、なぜかあいつが一人でいるのを見ることが減った。どうやら部屋で一人で籠っていることが多くなったみてぇだった。一方であいつから一緒にコーヒーを飲もうと誘いに来ることもない。もしかして、体調が悪いのではないのかとも心配だった。
正直なところ、オレはちょっと焦っていた。あいつにはよく手伝いをしてもらっていたから、オレの部屋で二人っきりになることはいくらでもあると高をくくっていたのに、そのチャンスがない。最悪、船の上で気持ちを伝える機会がなくても、次の島に上陸するときに一緒に出掛けようと誘えばその機会を作れるだろうと思っていたのに、出かけるのを誘うタイミングもねぇ。
とうとう明日上陸、という段階になってオレはエースを使うことにした。実際、エースがシフト表を出さねぇことに困っていたのでもあるが。
オレは食堂で名無しさんを見つけると、慌てて近づいた。

「名無しさん。」
声をかけると、
名無しさんが振り向いた。

「何?」
別に不機嫌というわけではないが、あまり喜怒哀楽を感じない表情だ。前は声をかけるともっと嬉しそうにしてなかったかい?とも思うが、オレは伝えるべきことを口にした。

「明日上陸なのに、エースが見張りのシフト表をまだ出してねぇんだよい。悪ぃが回収してもらえねぇかい?」
なぜか一瞬、断られるような気がした。だが、

「わかった。」
とだけ答えると、名無しさんはすぐに食堂を出て行った。
断られはしてねぇ。でも。今までだったら「えー?またぁ?エース捕まえるの大変なんだから、ちゃんとご褒美頂戴よっ!」って文句を言いながらも笑いながら引き受けてくれなかったかい?それに「ご褒美」を要求されたら、「次の島でケーキでも奢ってやるよい」ってちょうどいい誘い文句を言えるというオレの作戦も見事に失敗したじゃねぇか。

「…やっぱり何かおかしいよい…。」
そうつぶやくと、とりあえずオレは自分の部屋で名無しさんを待つことにした。
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