短い夢@

□エースの災難
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「って、言うんだ。」
エースからの一通りの説明を聞いて、身を乗り出していたサッチが

「…で?」
と先を促すと、

「だから、『そうか。』って返事したら、しばらくして部屋を出て行っちまった。」
とエースが答えた。
そんなエースをサッチが無言で見つめる。

「それで終わりか?」

「うん。」
こくりと頷いたエースに、サッチの眉間に皺が寄った。

「アホかぁ!何だよっ、それ!何にも疑惑は解明されてねぇじゃねぇかっ!」
サッチはエースの胸倉をつかむと、思いっきり叫んだ。

「い、いや!だ、だってよぉ!シャワー借りてたって言われたら、そうか、しかねーじゃねーかっ!それに名無しさんはそのまま出て行っちまうし、オレはマルコを待ってなきゃならなかったしっ!」

「マルコには何も聞かなかったのかよっ!」

「な、な、なんて聞くんだよっ!」

「なんてって、悩むとこじゃねーだろっ!『なんでおまえの部屋で名無しさんがシャワー浴びてんだよ』って聞けよ!」

「それこそ、『貸してやったんだよい』って返ってきたらどうすんだよっ!」

「そこはもっと食い下がれよ!っていうか、そのままで一週間も放置すんなよっ!」

「だからおまえに相談してんだろっ!」

「あのなぁ〜…。」

「だってよぉ…。オレ、絶対に見ちゃいけねぇもん見たんだぜ?マルコにも名無しさんにもこれ以上怖くて聞けねぇよ。」
肩を落とす弟を見下ろすと、サッチは

「わかった。」
と言ってエースの肩をポンと叩いた。不思議に思ってエースが顔を上げると、

「行くぞ。」
と言ってサッチが立ち上がった。

「へ?ど、どこ行くんだよ?」
思わずエースも立ち上がる。

「決まってんだろ。こうなったら直接聞くんだよ。」

「…マジか?」

「マジだ。」
サッチはきょろきょろとあたりを見回すと、エースの腕を掴んでずんずん歩き出した。

「おい!マルコ!」
ちょっと離れたところでジョズやビスタ、一番隊の連中と飲んでいるマルコを見つけると、サッチはまっすぐに向かっていった。エースも遅れまいとついていく。

「どうしたよい?」
そう言ったマルコにサッチが

「おまえの部屋で名無しさんが朝っぱらからシャワー浴びてたらしいじゃねぇか。」
と短刀直入に突っ込んだ。と、マルコの片眉がピクリと動いた。

「エースが見たらしいぞ。」
サッチがそう続けると、マルコはサッチの後ろにいたエースに視線を移す。

「いつの話だい?」

「ほ、ほら!おまえに始末書渡そうとしたら、親父んとこ行かなきゃなんねぇから部屋で待ってろって言った時だよっ!」
何でオレは何も悪いことをしてねぇのに、こんなにビビんなきゃなんねぇんだっ!と内心思いながらも、エースがそう説明した。

「…つまり、オレの部屋で待ってたらシャワーから名無しさんが出てきたってことかい?」

「そ、そうだよっ!まさかいるなんて思わねぇからおまえの部屋で待ってたら、バスタオル一枚であいつが出てくるから、オレマジでビビって…。」
本当は「名無しさんがいるならそう言ってくれよっ!」って「オレは悪くない」を強調したいところだったが、エースのその思惑は、マルコの額に入った青筋と背筋が凍りそうな覇気によって遮られた。

「オレはそんな話聞いてねぇよい。」

「え?」
(え?言わなかったオレ、殺されちゃうの?)なんて思ったエースをよそに、マルコは立ち上がると

「名無しさん!!」
と怒鳴った。

「ん?」
ちょっと離れたところでナースたちと飲んでいた名無しさんが振り返る。

「何?」
呼ばれて立ち上がった名無しさんがジョッキ片手にマルコの側に歩いてくる。(今日も黒なのか?)なんて先日のことをエースが思い出した瞬間、

「おまえ、シャワー出てきたとこでエースに出くわしたってのは本当かい?」
とマルコがいつになく低い声で問い詰めるように名無しさんに確認をした。エースもサッチもなんでマルコがこんなに怒っているのかさっぱりわからなかった。だが、どうやら怒りの矛先は自分ではなく名無しさんに向かっているようであることだけは何となく感じられた。だが、一方の名無しさんはそんなマルコの怒りなど微塵も感じていないのか、普通に

「え?あー。ああ。うん。先週かな?」
と答えた。

(…実は、二人の関係は秘密だったってことか?それがバレたから名無しさんに怒ってるんじゃ…。)
もしかしたら自分のせいで二人が別れたりするのではないかと、エースは不安になってくる。

「バスタオル一枚で出てきたらしいじゃねぇか。」

「ん?ああ。そうね。だって、服ベッドの上に置いてあったし。」

「まさかエースの目の前で着替えたんじゃねぇよな?」

「はぁ?馬鹿じゃないの?服もってシャワー室に戻りましたっ!」

「だとしても、男の前にバスタオル一枚なんかで出てんじゃねぇよい!」

「仕方ないでしょ!バスタオルしかないんだからっ!何?素っ裸で出てこいっていうの?」

「アホかっ!もう少し何とかしようがねぇのかよいっ!」

「無理でしょ!それじゃぁ、そのまま誰がいつまでそこにいるのかわからないのに、ずっとシャワー室にこもってろっていうの?それこそ風邪ひくでしょっ!それに、エースだよ?」

「エースでも、だよい!そもそもエースだってわかって出てきたんじゃねぇだろいっ!」

(…オレに対してちょっと失礼じゃね?)
そうは思ったが、エースは沈黙を守っていた。

「エースじゃなくても一緒だよっ!そもそも私を女扱いする奴なんて、マルコ以外にいないでしょっ!」

「そんなんわかんねぇだろいっ!もうちょっと警戒しろいっ!」

「じゃぁ、何で私がシャワー浴びてんのにエースを部屋で待たすのよっ!」

「もうとっくに出たと思ってたんだよいっ!おまえの風呂はいつも長ぇんだいっ!」

「誰かさんのせいで前日の疲労がたまってるから、のんびり入りたくなるんですっ!」

「人の部屋のシャワー借りといて偉そうに言うな!」
マルコがそう怒鳴ったところで、名無しさんは動きをピタリと止めた。まっすぐにマルコを睨んだかと思うと、

「ふーん。」
と言って急にマルコを小ばかにするように斜め下からマルコを見上げた。

「そういうこと言うなら、もう二度とマルコの部屋には行かないわ。」

「え?」

「大変失礼いたしました。もう隊長のお部屋には近づきません。」
くるりと向きを変えてさっきまで座っていたナースたちの方へ歩いていこうとする名無しさんに、

「お、おい!待てよい!」
とマルコが慌てて声をかけるが、名無しさんは完全に無視して足を止めない。
エースとサッチが茫然と見つめる先では、

「ちょっと、触らないでよっ!」

「悪かったよい!そういう意味で言ってんじゃねぇよい。」

「そういう意味でしょ?もういいもん!」

「いや、だから、そうじゃねぇって!」

「うるさいっ!」
とさっきの剣幕を完全に失ったマルコが名無しさんに何度も頭を下げていた。
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