短い夢@

□故郷の味
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その日の夜、またもう一山の書類を片付けて甲板に出ると、イゾウが舳先に腰かけて愛用のキセルをふかしていた。

「オレのために味噌汁を作ってくれ。」
オレが「よぅ。」と声をかけようとした瞬間、イゾウがそう言ってからカンカンっと手すりにキセルを打ち付けた。

「あ?」

「これはワノ国では『オレと結婚してくれ』って意味だ。」

「はぁ?」

「オレと結婚して、オレのために飯を作ってくれ、ってな。」

「…なるほど…。」
ああ。だからあのリアクションだったのか。

「何も知らずにあんなセリフを吐くおまえさんも大概だが、あの時の名無しさんの反応もなかなか面白かったねぇ。」

「…。」
楽しそうにそういったイゾウを見ながらオレもあの時の名無しさんの様子を思い出す。

「味噌汁が気に入ったのはいいこった。でも、たまにはオレにも食わせろよ。」
イゾウはそう言って懐にキセルをしまうと、片手をあげて去っていった。

「…イゾウのお許しはもらったってことかよい。」
まぁ、本来は親父の了承を得るのが先だが。親父はきっとグラグラと笑って、「名無しさんがいいってんなら好きにしろ。」って言うだけだろう。
そういう意味ではうるせぇ兄貴たちの中でも、故郷も同じで一番過保護なイゾウの許可が出たなら全船公認も同然だ。

「もう一回言ってみるかねぇ。」
次回は手を握って言ったりしたら、今日とは違って確信犯だとわかるだろうか?
果たして、そのときの名無しさんは?
今日の反応を思い出して脈ありだと思うのがオレだけなら怪しいが、あのイゾウのお墨付きなら間違いない。

「なかなか洒落た口説き文句だよい。」
そうは思ったものの。いきなり結婚はねぇな、と思ったオレは、明日以降どうやってあいつを堕とすか作戦を練ることにした。
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