短い夢A
□罰ゲーム
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「うそぉ〜っ!!」
部屋に戻ろうと歩いていると、ちょっと離れたところから女の声が聞こえた。
(名無しさんか?そういやぁ、今日はポーカーするって言ってたな。)
あの叫び声はきっと負けたに違いねぇ。オレは負けた名無しさんをからかってやろうと、ゆっくりと声の方に近づいた。
「これで名無しさんの負けが確定だなっ!」
「約束どおり、罰ゲームだぞっ!」
「うそぉ〜っ!最悪っ!」
(大した金もねぇ奴らが集まって…と思ったら、罰ゲームかよい。)
オレは声を出して笑いたくなるのをこらえて歩いていたが、次の仲間の発言で思わず足を止めた。
「約束どおり、一週間以内にマルコ隊長に告れよっ!」
(…は?)
「で、ちゃんと結果をオレたちに報告しろよなっ!」
思わず耳を疑ったオレは、次の一歩を踏み出す前に自分の存在を知られちゃならねぇと気配を消した。
「えぇぇぇ〜っ!ヤダ、ヤダよっ!」
「ヤダじゃねぇ!約束したじゃねぇか!」
「おぅ!オレ達1番隊に二言はねぇ!」
「あああーー!あんな約束するんじゃなかった…。」
名無しさんの抗議は一切受け入れられる様子はねぇ。それどころか、ますます囃し立てる様子に、名無しさんはヤダヤダと文句を言っている。かと思ったら、隊員の一人が、
「じゃ、約束は約束だからな。ちゃんとマルコ隊長がどんなリアクションしたか報告しろよ〜。」
と言うと、その場にいた全員が立ち上がった。
「マルコ隊長がどんな顔すんのか楽しみだぜっ!」
「じゃ、一週間後、またここに集合だな。」
「ちゃんとやれよ〜。」
次々と近づいてくる声に、オレは慌ててその場を後にした。
(…つまり、一週間以内に名無しさんがオレに告るってことかい…。)
自室に戻ったオレは、そのまま寝る気にもなれず、ベッドに寝転んで天井を仰いだ。が、募るイライラに悪態をつくと、部屋を出て酒蔵から酒瓶を数本掴んで部屋に戻った。
「くそっ!」
取り敢えず一本空けたオレは、再び悪態をつく。正直に言うと、オレは名無しさんが好きだった。特にここ最近は、白ひげ海賊団にとっても、1番隊にとってもっと大事な戦力になりてぇと今まで以上に頑張っていた。細けぇ雑用も嫌な顔一つせず、積極的に手伝ってくれた。「最近頑張ってるじゃねぇか」なんて飲みの席で声をかけた時に、「もっと役に立ちたいんですっ!」と言った人懐っこい笑顔に惚れた。そんな名無しさんも、何かあると「マルコ隊長、マルコ隊長」ってオレを慕ってくれてるようだった。
「それがどうだい。仲間と一緒に罰ゲームと称してオレをからかうつもりかい。」
オレがどんな反応をするのか楽しみだなんて言ってた野郎を思い出して、オレは思わず空になった酒瓶を投げつけそうになったが、自分の部屋で割れた酒瓶を片付けるのは自分しかいねぇという現実に手を止めた。
(に、しても…。偶然とは言え、あの話を聞けて良かったよい。何も知らねぇまま告白なんてされてたら、とんだ恥さらすところだったよい。)
きっとオレは、満面の笑みで「オレも好きだよい」なんて返事をしちまってただろう。そんなオレを見て、あいつらは大笑いしたに違いない。持ってきた酒瓶を全部空にすると、オレはそのまま不貞寝した。