短い夢A

□そういやぁ、女だった
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「ああぁ?腹が痛ぇ?」
驚いたマルコがそう声をあげると、1番隊の隊員も心配そうに

「そうなんっすよ。だから、稽古は休むって隊長に伝えてくれって。」
いつもは細い目を丸くすると、マルコは言葉に詰まっていた。だが、すぐに

「…他に腹が痛ぇって奴はいねぇのか?」
と周りを見渡した。マルコの前に集まっていた隊員たちがお互いを見回すと、首を横に振る。

「食中毒とか出てねぇよな?実は寝込んでるなんて奴は他にいねぇか?」
もう一度マルコにそう言われて、隊員たちはさっきよりはっきりと首を横に振った。

「ちょっとサッチと話をしてくる。おめぇらは先に稽古始めとけよい。」
マルコはそう指示を出すと、厨房に向かって歩き出した。



「はぁ?おまえ、オレに喧嘩売ってんのかよっ!」
厨房に響き渡るサッチの声に、忙しそうに昼食の準備をしていた4番隊の隊員たちが一斉に振り向いた。

「ま、待て!念のために確認してるだけだよいっ!落ち着け、サッチ!」
振り向いた隊員たちは、次に視界に入った、怒れるサッチとそんなサッチを宥めるマルコにさらに驚きの表情を見せた。

「オレたちが腹壊すようなもん出すわけねぇだろっ!どんだけ細心の注意を払ってると思ってんだよっ!しかも、まだ出航してから3日しか経ってねぇっ!まだまだ新鮮な食材があるんだ!食中毒なんておきるかっ!」

「わかってる!わかってるよいっ!でも、あの名無しさんが腹が痛ぇっていってるんだ!あいつが腹壊すなんてよっぽどだろ?」
マルコの発言に、サッチの顔に困惑が広がる。

「名無しさん?」

「ああ。あいつが腹痛で稽古休んだんだよい。」
サッチは少し考えてから

「…何か拾い食いでもしたんじゃねぇか?激辛のもん食ってバカみてぇに飲んだとか?」
と言った。

「まぁ、しばらく寝るって言ってるから、昼飯の時に部屋から出て来なかったら様子を見てみるよい。腹壊したとかじゃねぇとなると、盲腸とか、そういうこともあり得なくねぇしな…。」
マルコがそう言うと、落ち着きを取り戻したサッチは

「確かに、名無しさんが腹が痛くて寝込んでるなんて、ちょっと怖ぇな。」
とつぶやいた。




「あ。名無しさんさん、大丈夫っすか?」
稽古を終えて1番隊の面々が食堂に入ると、先に席に着いていた名無しさんを見つけて口々に声かける。当の名無しさんは、やっぱりまだ本調子ではないのか、不機嫌そうにスープの入った目の前のボウルにスプーンを突っ込んだ。隊員から少し遅れて食堂に入ってきたマルコも、名無しさんの存在に気が付いて近づいてきた。

「飯、食えんのか?」
近くに座った隊員にそう言われた名無しさんはぶすっとした顔でチラリと声の主を見ると、何も言わずにスプーンを口に運んだ。マルコはそんな名無しさんの横に座る。

「大丈夫か?おまえが稽古に来ねぇなんて、嵐になりそうで怖ぇよい。」
名無しさんは仏頂面でマルコを見ると、無言のままスプーンを口に運んだが、そのスプーンが唇につくまえに顔を引きつらせて手を止めた。

「おい。大丈夫か?」
明らかに苦痛に顔を歪める様子に、マルコが焦って声をかけると、名無しさんは無言のまま頷きながら、何とか痛みを逃そうとする。

「何か変なもんでも食ったのか?心当たりはねぇのか?」

「へ、平気。」

「平気って、おまえ…。全然そうは見えねぇよい。」
痛みがおさまったのか、名無しさんは体を起こして一息つくと、

「大丈夫。」
と言って食事を続けた。そんな様子を眉間に皺を寄せてマルコは見ていたが、名無しさんの目の前にはスープが入ったボウルしかないのを見ると

「食欲ねぇみてぇだし、大丈夫じゃねぇだろ?この後ナース長に声かけて診察…。」
と言ったところで、

「生理痛だから。」
と名無しさんが答えた。一瞬何を言われたのか理解できなかったマルコに代わって、横に座っていた隊員が声をあげた。

「生理痛?!」

「え?名無しさん、生理あるのか?」

「生理って女がなるんだろ?」
名無しさんは声をあげた隊員たちをギロリと睨むと、睨まれた隊員たちは一斉にひるんだ。だが、ちょっと離れたところに座っていたラクヨウがゲラゲラと笑った。

「生理痛?ってか、おまえ、まだ生理あんのか?もうあがっちまったんじゃねぇのか?…グェっ!」
名無しさんが投げたスプーンが、ラクヨウのおでこにクリーンヒットすると、周りにいたクルーが笑い転げた。

「てめぇら、覚えてろよ。」
名無しさんはそう言って近くに座っていた隊員たちを睨むと、相変わらず眉間に皺を寄せたまま立ち上がってそのまま食堂を後にした。そんな名無しさんの背中をマルコは心配そうに見送っていたが、気を取り直して食事を食べ始めた。
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