長い夢 「不死鳥の女」
□不安と焦り
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隊長会議から数日後、モビーは冬島に到着した。
(…ここ、元から冬島だよね?クザンさんの能力で雪降ってるとかじゃないよなぁ…。)
そんなことを考えながら、ふわふわと空から舞い落ちる雪を見上げていると、
「ほら、ぼさっとしてねぇで降りるよい。」
とマルコが声をかけた。
「買わなきゃいけないもの、結構あるの?」
マルコに追いついた名無しさんがそう声をかけると、マルコは手元のメモを見ながら、
「途中で戦闘もなかったし、前回の島でそれなりに調達できてるから量はねぇが…。できれば冬島でしか手に入らねぇもんは買っときてぇと思ってるよい。」
と言った。
「ふーん。そんなのあるんだ。」
「ああ。寒い所でしか育たねぇ薬草とか、珍しい風邪薬の類とかな。」
「なるほど。じゃ、まずは薬局だね。」
「ああ。」
二人並んで雪道を歩いていく。前の島は春島にしては暖かい気候だったこともあり、久々の寒さだった。
「ブーツ持っててよかった。普通の靴じゃ滑って歩けないよ。」
踏み固められた雪道を歩きながら名無しさんがそう言って、凍りそうな指にはぁーっと息を吹きかけた。
「前の島が暖かかったからな。余計に寒く感じるよい。」
そう言ったマルコも、さすがにいつもの素肌にシャツではなく、厚手のフード付きコートを羽織って、長ズボンにブーツだ。
「ここには2週間いるんだっけ?あー、どこかで手袋買おう…。」
両手を擦り合わせてそんなことを言った名無しさんをチラリと見ると、マルコが
「手ぇ出せよい。」
と言った。
「え?手?」
首を傾げたまま名無しさんが右手を出すと、マルコがその手を掴んで自分のコートの左ポケットに突っ込んだ。
「ちょっと!何やってんの?離してよっ!」
「寒いんだろい?」
「さ、寒いけどっ!でもっ!」
「それに、青キジに連れてかれねぇように捕まえておいた方がいいしな。」
「あ、歩きにくいから放せっ!」
「嫌だよい。ほら、しっかり歩かねぇと滑るよい。」
真っ赤な顔で一生懸命右腕を引っ張ってマルコのポケットから抜き出そうとする名無しさんとは対照的に、マルコはポケットの中で名無しさんの手をしっかり握ったまま余裕の表情で歩き続ける。目的の薬局について、やっとマルコは名無しさんの手を解放した。早く手袋買わないと、とぶつぶつ文句を言う名無しさんに笑いを押し殺しながら、マルコは欲しい医薬品について店主と話を始めた。
マルコが店主と話をしている間、店の中の医薬品を眺めていた名無しさんは、マルコが会計を終わらせたところで、
「欲しいものはあったの?」
と言いながらマルコの元に来た。
「ああ。買い出しは終わったよい。昼飯でも食うか?」
「そうだね。何か暖かいもの食べたい。」
再び小雪舞い散る外に出ると、二人は食事を提供してくれそうな小さな店を見つけて入った。
暖炉の側の席を陣取ると、名無しさんもマルコも上着を脱いで一息ついた。
「はぁ〜。寒かった〜。」
「お。酒も暖かいのがあるな。」
「本当だ。えっと…。あ。」
「ん?」
メニューを見ながら会話をしていると、名無しさんが何かに気がついたようだったから、マルコが顔を上げた。
「この野菜。ほら、紫のトマトみたいなの。」
「…変わった野菜だな。」
「この前の島で見つけたんだよね。で、気になって頼んだんだけど…。ちょうどそこでク…青キジが来たから、もうなんか、その後は食欲なくなっちゃって…。結局ちょっとしか食べなかったんだよね。」
苦笑いする名無しさんに
「…。なら、またここで頼めよい。」
とマルコが言うと、
「うん。でも、あの島の特産品みたいなこと書いてあったんだよね。こんなに気候が違うのに、ここでもとれるのかな?」
と名無しさんが首を傾げた。
「もしかしたら、あの島から運んでるのかもしれねぇな。おーい。」
マルコが店員に声をかけて注文をする。注文を終えると、ぼんやりと暖炉の火を見ていた名無しさんにマルコが声をかけた。