長い夢 「不死鳥の女」

□ようこそ白ひげ海賊団へ
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「マルコの部屋で寝るくらいなら、甲板で寝るわ。」
思いっきり口をへの字に曲げて名無しさんがそう言うと、マルコは

「へいへい。」
と返事をして、側にいたナースに声をかけた。

「女部屋のベッドは空いてるかい?」

「いくつか空きがあるから大丈夫ですよ。」

「すまねぇがこいつを案内してやってくれ。」

「わかりました。」
対応したナースはにっこり笑うと、

「名無しさんさん、行きましょうか?」
と名無しさんに声をかけた。

「ありがとうございます。」
名無しさんはやっとマルコから解放されると内心大喜びでナースについていく。
結局さっきの飲み会も、常時べったりとまでは言わないものの、常にマルコの視線を感じていた。で、結局気が付けば、最後はマルコは名無しさんの横に座っていたのだ。とは言え、セクハラめいたことをするわけでもなく、気が付けば出身はどこだとか、どんな酒が好きだとか、個人的な話をしていた。白ひげ海賊団の飲み会には何度も同席したことはあったが、マルコはいつも名無しさんを毛嫌いして離れた場所にいたもんだから、マルコと名無しさんが会話らしい会話をしたのはこれが初めてだった。会話自体は不快なことは何もなく、かつ、明日以降の事務連絡なんかも兼ねていたから、全く問題はなかったものの。

(でも、気を抜くと何されるかわかんないから、疲れるんだよね…。)
と、思いながら名無しさんはナースの後ろで大きなため息をついた。

女部屋に着くと、連れてきてくれたナースがすぐに開いているベッドに誘導してくれた。
荷物の置き場や女部屋のルールなど(当たり前だが男子禁制、とか)を簡単に説明し終えたところで、他のナースたちも部屋に戻ってきた。
名無しさんは慌てて顔を上げると、

「今日から白ひげ海賊団でお世話になります、名無しさんです。」
と入ってきたナースたちに頭を下げた。
が、その瞬間

「あなたが例の!?」

「この子よ、この子!」

「へー!マルコ隊長って、こういう女の子がタイプだったのねっ!」

「すっごい強いんでしょ?聞いたわよっ!」
とナースたちに一気に囲まれた。

(げっ!マジかっ!)
思わず後ずさって、名無しさんがそのままベッドに座ってしまうと、すぐに両脇をナースに固められた。

「ねぇ!マルコ隊長に担がれて部屋に連れていかれたんでしょ?」

「そこで口説かれたの?」

「いやーん!やっぱり口説く時もあの口癖なのかしら?」

「『好きだよい』って?」

「やだ〜!!」
キャイキャイと騒ぐ集団に圧倒されて、名無しさんが何も言えずに目を丸くしていると、落ち着いた雰囲気のナースが全体に声をかけた。

「こらこら。驚いてるじゃないの。ちょっと落ち着きなさい。」

「ナース長だって気になるでしょ?」

「そうですよ!あのマルコ隊長が女の子口説いてるんですよ?」

「そうですよ〜。てっきり女には全く興味がないのかと思ってたくらいなのに。ねぇ。」
ナースたちのマルコに対する発言を聞いて、名無しさんの頭にふと、ビスタが「女に興味を持つマルコなんて初めて見るからな。」と言っていたことを思い出す。

「え?マルコって、気に入った女をいろんなところからかっさらってるんじゃないんですか?」
思わず名無しさんがそうきくと、ナースたちは顔を見合わせた。

「やだー!」

「マルコ隊長、かわいそうっ!」

「むしろ逆よね?」
とナースたちが爆笑する。

「え?そ、そうなの?」
困惑する名無しさんに、例のナース長と呼ばれた落ち着いた雰囲気のナースが答えた。

「マルコ隊長は女遊びもしないし、ナースたちにももてるのに、全然興味を示さないのよ。『堅物マルコ』って言われてるくらいなのよ?」

「そうそう。一部では男が好きなんじゃないか、なんて噂もあったくらいで。」
女部屋に名無しさんを案内してくれたナースも補足すると意外な事実に驚愕する名無しさんに、

「で?名無しさんさんとしてはどうなの?」
と意味深な笑みをたたえて問いかけた。

「え?」

「マルコ隊長。いい男だと思わない?」
ナース全員の期待だか羨望だかのまなざしを浴びて、名無しさんはどう答えようか迷ったものの。

「…ないです。」

と答えた。

「えええっ!」

「え?マルコ隊長、ダメ?」

「なんで、なんで?」
またもや一斉に質問攻めにされて、身をのけぞりながらも名無しさんは答えた。

「だ、だって!いきなり『オレの女になれ』とか、そもそも血まみれで海賊何人か仕留めたところに惚れたとか、どう考えたって変態じゃないですかっ!それに、今までも何回もここに遊びに来てたけど、すっごく感じ悪かったんだからっ!」
名無しさんが一気にそうまくし立てると、ナースたちは「うーん」と唸った。

「強くてかっこいいけどねぇ。」

「優しいし、頭も切れるわよ。」

「あの『よい』だって、なかなか可愛いし。」

「私たちの中では抱かれたい男No.1なのに。」

「…。そんなこと言われても…。強いのも優しいのも、頭がいいのも見たことないですもん。」

「なるほど…。」
女部屋に案内してくれたナースがニヤッと笑うと、

「じゃ、これからね。マルコ隊長の魅力を知るのは。」
と言った。

「…そうなんですかねぇ…。」
(別にいいよ、知らなくて)とも思ったが、これ以上ナースたちに突っ込まれるのも面倒だと思った名無しさんは余計なことは口にすまいと思った。

「さあ!もう遅いし寝ましょう!お肌によくないわよっ!」
ナース長がそう声をかけると、まだまだ話足りないという顔をしたナースたちは渋々就寝の準備に入った。

(はぁ…。いっつも男所帯に慣れてるから、まさかこんな展開になるとは…。っていうか、もしかして、これから毎晩こうなの?)
少々先行きが不安になりながらも、とにかく起きているとまた話をふられかねないと思った名無しさんはさっさと布団に潜り込んだ。
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