長い夢「続・何度でも恋に落ちる」

□誕生日プレゼント?(後編)
1ページ/6ページ

「ふーっ。何とかめどがついたな。」
話を終えて持ち場に戻っていく船大工たちの後ろ姿を見送ると、マルコは大きく深呼吸してから気持ちのいい青空を見渡した。

(今晩は陸でゆっくりできそうだよい。)
マルコは自室に戻ると、時計を確認した。

(…昼飯は島で食うか…。もしかしたら名無しさんに会えるかもしれねぇな。)
そう考えたマルコは、モビーを降りると、街へと繰り出した。結局名無しさんは見当たらず、一人小ぎれいな定食屋を見つけて注文を済ませると、マルコは店の窓から外の通りを眺めた。視界に入るアクセサリーショップを見ながら、ついさっき聞いたこの島の伝説について思い返していた。

(色の変わるガラス玉ねぇ…。)
似たような店、商品が並ぶことに疑問をいだいたマルコがアクセサリーショップの店先で掃除をしていた少年に声をかけると、少年は名無しさんが聞いたのと同じような説明を始めた。『女の人が買うことが多いですけど、男の人から贈ることもあるんで、よかったら見ていってくださいよ。』そんな営業トークに適当に笑顔を返すと、マルコは昼食を食べる店探しに戻ったのだ。目の前に出されたプレートに顔を上げると、いかにも話好きそうな店の女将がマルコを見下ろしていた。

「お客さん、白ひげさんとこのかい?」

「あ?ああ。」

「噂には聞いてたけど、随分と行儀のいい奴らだね。あんたたち。」

「ああ。堅気に手を出すなってのがオヤジの言いつけだからな。」
ニコニコと微笑む女将に、マルコも笑顔を返しながら付け合わせのサラダにフォークを突き刺した。

「そうやってうまくやってくれれば、海賊だろうが何だろうが、お互い持ちつ持たれつなんだけどね。たまに躾のなってないのがいるからね。」

「確かにな。昨日はこの島の船大工にかなり頑張ってもらったしな。海賊だろうとなんだろうと、困ってる船乗りに手を差し伸べてくれるのはありがてぇよい。」
そんなマルコの返答に気をよくしたのか女将はにっこりと微笑むと、厨房に戻っていった。だが、マルコが食事を終える頃、お盆を持って戻ってきた。

「サービスさ。甘いもんが嫌いじゃなかったら試してみておくれ。」
そう言って、女将はコーヒーとクッキーの入った小皿をマルコの前に置いた。

「お。ありがてぇ。」
マルコはクッキーを口に放り込んだ。

「うめぇよい。」

「そうかい。そりゃよかった。娘が街の外れで店出してるんで、よかったら買って行っておくれ。」
そう言われたマルコは、名無しさんが好きそうな味だ、と思いながらコーヒーに口をつけた。

「そういやぁ…。この島の特産品のガラスは、中に入れる人の爪で色が変わるんだってな。一体どういう仕組みだい?」
アクセサリーにも伝説にもあまり興味のないマルコだったが、着色もしていないのに色とりどりに輝くガラスについては不思議に思っていた。

「さぁねぇ。私も難しいことはわからないけど…。ただ、まぁ、やっぱり爪の成分が関係あるんじゃないかとは言われてるね。人種によって傾向があるみたいだ、とか能力者は珍しい色になるなんて言うからねぇ。でも、ま、伝説だとかロマンチックな話が好きな人間は、爪の持ち主が大事にしてる人とか物のイメージが出る、なんて言うけどね。」

「へぇ。」

「この島唯一の産業だからね。よかったらちょっと見てっておくれよ。まぁ…。」
そう言うと、女将はニヤッと笑ってから、

「あんたはモテそうだから、あの色っぽいナースのお嬢さんたちからたくさん贈られるのかもしれないねぇ。」
と言った。

「…好きでもねぇ女の爪の入ったガラスなんて、勘弁だよい。」
本当に勘弁してくれ、という表情でそう言ったマルコに、女将は豪快に声を上げて笑った。


店を出たマルコはあたりを見回した。名無しさんを探しに行くか、モビーに戻るか迷ったが、島の船大工といい、さっきの女将といい、なかなかいい島だと思っていたから、ちょっと一人で散策してみようと思った。

(どこかで名無しさんに会えるかもしれねぇしな。)
そんなことを考えながら歩いていると、アクセサリーショップから出てくる男女が目に留まった。

(ありゃ、確か、3番隊の…?)
出てきたのは3番隊の若いクルーとその腕を組む、普段着のナースだった。男はマルコに気が付くと、小さく頭を下げた。マルコも片手をあげて挨拶する。

(ま、こういうもんは若ぇ衆には受けがいいのかもしれねぇな。)
そう思ったところで、

(…名無しさんがオレに買ってたりするんだろうか?)
という考えが頭をよぎった。

「…。いやぁ…。」
何だか名無しさんのイメージと合わない。一緒に店に入って、伝説の話を聞いて『へぇ〜。どんな色になるかやってみようよ』なんて面白がる名無しさんはイメージできるが、マルコの知らないところでこういったものを準備している様子はどうもピンとこないのだ。だが、そこで、マルコはもう一つの事実に気が付いた。そう。もうすぐ自分の誕生日なのだ。

(…そういやぁ…あいつ、さすがにオレの誕生日は知ってるよなぁ。)
二人がつきあう前から、マルコの誕生日を知っている1番隊のクルーがお祝いと称して毎年甲板でバカ騒ぎをしていたのだ。名無しさんが知らないはずはない、とは思ったものの。

(…覚えてねぇかもしれねぇな…。)
『え?そっか?そう言えば、毎年この時期にみんな騒いでたね。やだ。早く言ってよ。』 なんて言った後、『じゃ、次の島で晩御飯奢るよ。』と言ってニッコリ笑う姿が想像できる。

(まぁ、さすがにこの歳だし、別にいいんだけどよい…。)
そう思ったものの、一方で甲板での飲み会の合間にこっそり『はい』と言ってプレゼントをしれっと渡してくる名無しさんも想像できなくはない。

(全く、いい歳して何に期待してんだか…。)
誕生日ごときでいろいろと妄想する自分に思わずそう苦笑いしたところで、マルコは目の前に愛しい人の後ろ姿を見つけた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ