長い夢「続・何度でも恋に落ちる」

□誕生日プレゼント?(前編)
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こじんまりとした島に上陸した初日だった。
名無しさんは一人ブラブラと街を散策していた。いつものように本屋・古本屋がないか、食事の美味しそうな店はないか、マルコとのんびり過ごすのにいい宿がないかと物色する。本来はマルコと一緒に出歩く予定だったが、出かける間際になって、マルコが申し訳なさそうに名無しさんに声をかけてきたのだ。

「すまねぇ。ちょっと、船の修理の件で対応しなきゃならなくなっちまった。」

「あらま。えっと…、夜までかかるかな?」
よくあることだと大して気にも留めず名無しさんがそう返事をする。

「うーん…。さすがにそりゃねぇと思うよい。」

「じゃ、夕方に一度モビーに戻ってくるね。一緒にご飯食べられそうだったらそうするし、もし、会えなかったら適当に済ませるよ。宿も適当にあたりつけとくから、今夜から泊まるでも明日以降にするでもどっちでもいいし。」

「おぅ。すまねぇな。」
そう言ってマルコが船内に消えて行くと、名無しさんは一人街に繰り出したのだった。

(小さな島だし、いい本屋は期待できないかな…。)
そんなことを考えながら歩いていると、名無しさんはふと、あることに気が付いた。

(…さっきから、似たようなアクセサリー屋が多いよなぁ…。)
大きな島ならいろんなテイストのアクセサリーショップが多数並んでいることもあるが、島の規模の割になぜかアクセサリーショップが目につくのだ。これが八百屋や魚屋なら、生活必需品だし理解もできるが、アクセサリーはそうではない。しかも、なぜかどこも同じような商品が並んでいる。

(…地元の民芸品?何か特産品とかなのかな?)
ネックレスにブレスレット、指輪からキーホルダーまで、いろいろな種類があるのだが、どれも同じようなデザインの石がついている。名無しさんが思わず立ち止まって店先に並ぶものを覗き込んでいると、

「どうぞ〜。中に入ってみて行ってください。」
と店の戸口に立つ男に声をかけられた。

「…これって、この島の特産品か何かなんですか?」
そう名無しさんが声をかけてきた店の店主らしき男に問いかけると、

「そうなんですよ。この島に古くから伝わる伝説があってね。」
と店主は説明を始めた。

「伝説?」

「ええ。海賊と戦うために海に出る恋人のために、女性が送ったっていう話でね。ほら、この石。独特でしょう?」
そう言いながら、店主は近くにかけてあったキーホルダーを手に取って名無しさんに差し出した。名無しさんはそのキーホルダーを受け取ると、目の前にぶら下げて石を見てみる。

「それはね、石っていうか、ガラスなんですよね。この島特産の変わったガラスでね。いろんな色があるのは、着色じゃなくて、自然にそうなるんですよ。」
名無しさんが手にしていたキーホルダーについた石は琥珀のような黄色ともオレンジとも言える色をしていたが、店主がもう一つ手に取った物は、南国の海のような水色だった。

「へー。」
名無しさんがじっと手にしたガラスを見ると、中に何か三日月のような形をしたものが入っている。何だろうと首を傾げたところで、店主がニヤッと笑って、

「で、その真ん中に入ってるのが爪なんですよ。」
と言った。

「え?爪?」
一瞬聞き間違いかと思った名無しさんがそう聞き返すと、きっとよくあるやり取りなのだろう。驚く名無しさんに慣れた感じで

「そう。しかも、人間のね。」
と答えた。それを聞いた名無しさんが思いっきりしかめっ面をすると、店主は声をあげて笑った。

「はははは。まぁまぁ、そんな顔をしないでくださいよ。そこでその伝説が関係あるんです。その爪は、海に出る恋人を送り出した女性の薬指の爪なんですよ。」

「薬指?」

「そう。結婚を約束していたのに男が海に出ることになって、女としては海に出る前に結婚してしまいたかった。でも、男は、生きて戻れるかもわからないのに、結婚してすぐに大事な女を未亡人にするわけにはいかない。もし、自分が戻らなければ、別の人と結婚して幸せになって欲しいと告げた。それを聞いた女は、自分の薬指の爪を切って、この島に伝わる海の神の力が宿ると言われているガラスにそれを入れてペンダントを作って渡した。『私のこの左手の薬指はあなたのためにあります。あなたの無事を祈って作ったペンダントです。私の体の一部とこの島の海の神があなたを守ります。』ってね。」

「…へぇ…。」

「伝説では、男は無事に島に帰り、二人はめでたく結ばれたんですよ。だから、この島では昔から海にでる男に恋人が自分の薬指の爪を入れたガラスでアクセサリーを作って渡す習慣があってね。しかも、あなたとしか結婚しないって宣言することになるから、海に出ない男にも、女性から送って逆プロポーズする人もいるんですよ。」

「なるほどね…。」
店主の説明を聞いて改めて名無しさんが手にしたキーホルダーを眺める。

「しかもね。ガラスの色は中に混ざる成分で変わるから、同じ人間の爪でも、人によって色が変わるんですよ。だから、自分のがどんな色になるのか試してみたいって買われる方も多くてね。今では男女ペアでお互いの爪を入れたアクセサリーを作ったりもするんですよ。」

「ふーん…。」
名無しさんは顔をあげて店内をぐるっと見回す。改めて、本当に色とりどりのガラスがある。
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