長い夢「続・何度でも恋に落ちる」

□紅葉
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偵察を終えて帰路につくマルコの目下に赤いものが見えた。

(…火事か?)
もし、争いごとが原因での火事なら警戒しなくてはならない。行きと帰りで少し違うルートを飛んでいたから、さっきは見落とした何かがあるのかもしれないと緊張が走ったものの、すぐにその正体を知ってマルコの頬が緩んだ。

「紅葉かい…。」
そう。遠目に真っ赤に燃えているように見えた小さな島は、赤や黄色に色づいた葉で覆われていたのだ。

(大したもんだよい。)
一度ぐるっと上空を旋回すると、マルコはモビーに向かって速度を上げた。



白ひげに報告を終えると、マルコは自室には戻らずにまっすぐに名無しさんの部屋に向かった。ノックとともにドアを開け、中を覗き込むと、ベッドの上で本を読んでいた名無しさんが顔をあげた。

「あ。おかえり。」
名無しさんがそう声をかけたものの、マルコは

「上着持ってすぐに来いよい。」
とだけ告げると、すぐにドアを閉じて消えてしまった。

「え?ちょ、ちょっと!?」
名無しさんは慌てて立ち上がると、上着をひっ掴んで部屋を飛び出した。

「マルコ?」
外に出ると、そこにはすでに変身したマルコが、背中を向けて羽を広げていた。

「行くよい。」

「は?どこに?」
わけもわからず疑問を投げかけながらも名無しさんがマルコの首に腕を回すと、マルコは一気に飛び上がった。

「一体何なのよっ!ちょっとは説明しなさいよねっ!!」
背中で文句を言う名無しさんに、

「すぐ着くから黙ってろい!」
と笑いながらマルコが叫ぶ。
何だか楽しそうなマルコに、取り敢えずトラブルとかではないらしいと理解した名無しさんは、ぶつぶつ言いながらも、目の前の景色を楽しむことにした。

5分も飛ぶと、名無しさんが声をあげた。

「え?火事?」
自分と同じリアクションに、マルコが

「ハハっ。オレもおまえも、まずは物騒なもんしか思い浮かばねぇな。」
と笑いながら言うと、名無しさんは目を凝らした。

「…紅葉?」
ちょうど島の上に差し掛かったマルコは、一気に高度を落とした。赤や黄色に染まる木のすれすれの所を飛ぶと、背中から喚起の声があがる。

「すごいっ!真っ赤だねっ!うわぁ〜!」
想像した通りの名無しさんのリアクションにマルコの唇も弧を描く。しばらく上空からの景色を楽しんだ後、マルコは島に降り立った。

「秋島、なのかな?」
サクサクと落ち葉を踏みしめる自分の足元を見ながら名無しさんがそうマルコに言うと、マルコもいつもよりゆっくりと歩きながら、

「ん…。寒暖の差がねぇと色づかねぇからなぁ。もしかしたら、この島には四季があるのかもしれねぇな。」
と答えた。

「確かにね…。ずっと秋の気温だとこうはならないか…。ってことは、しばらくしたらもっと寒くなるのかな?」

「かもしれねぇな。この上に雪が積もるのもまたいい感じだろうよい。」
マルコの発言に名無しさんは顔を上げて辺りを見回した。真っ赤に染まる紅葉(もみじ)の葉が頭上を覆いつくす。

「ちょっと進路とは違う方向に飛んだよね?この島の横は通らないの?」

「ああ。航路からはズレてる。通るならちょっと上陸してもよかったんだが、島も小せぇからな。接岸するのも厳しいよい。」

「そっかぁ…。」
残念そうにそうつぶやくと、名無しさんは一枚の紅葉を拾い上げた。じっとそれを見てから、持っていた葉をポイっと捨てると、別の葉を手に取る。紅葉狩りでも始めたのか、としばらくその様子を黙って見ていたマルコは、くるっとあたりを見渡すと、比較的大きな紅葉の木の下に座った。黙々と気に入った葉を手に持ったまま、また別の葉を拾っては吟味する名無しさんを穏やかな笑顔で見つめると、頭の後ろで手を組んで空を仰いだ。しばらく、静かな森にサクサクと気持ちのいい、名無しさんの歩き回る音だけが響いていた。

(…風が出てきたか?)
マルコは閉じていた目をゆっくりと開いた。名無しさんの足音以外に、ザワザワと木を揺らす音が聞こえだす。マルコが1枚のオレンジ色の葉がゆっくりと落ちていくのをぼんやりと眺めていると、びゅっとひと際強い風が吹いて落ち葉が舞い散った。舞い散る色とりどりの落ち葉を穏やかな笑顔で見上げる名無しさんを見て静かに微笑むと、マルコは立ち上がった。

「冷えてきたな。そろそろ帰るかい。」

「そうだね。」
名無しさんは小走りにマルコにかけよると、右手でぎゅっとマルコの左手を握った。

「冷えちまってるじゃねぇかい。」

「ふふふ。帰ったら暖かいコーヒー淹れようね。」
ニッコリと微笑む名無しさんの冷たい唇にそっとキスをすると、

「そりゃいいな。」
とマルコも微笑んだ。
モビーに戻ると、マルコと名無しさんは食堂に向かい、ゆっくりコーヒーを飲んで穏やかな午後を過ごした。
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