長い夢「続・何度でも恋に落ちる」

□完治
1ページ/2ページ

「よし。」
そう言うと、マルコは名無しさんのシャツを下ろした。

「完治だよい。」
そんなマルコをじっと見ると、

「全部解禁?」
と名無しさんが聞いた。リハビリとしての筋トレや素振りなどは許可されていたが、想定外の動きをする可能性のある実践型の稽古は禁止されていたし、禁酒も言い渡されていたのだ。

「ああ。」

「はぁ〜。やっとだよぉ〜。」
名無しさんが解放された、と言わんばかりに大きく伸びをすると、マルコは

「ここからもうちょっと傷跡が薄くなってくれりゃいいけどな。」
と言ったが、そんなマルコの頬に名無しさんはそっと触れると、

「ま、名誉の負傷ってことで…。あ、いや。これをネタにしたらマルコ一生私に頭上がらない?」
と言ってニヤリと笑った。

「…そんな傷がなくたって、もう一生頭が上がらねぇ気がするよい。」
ムスッとしたままそう言ったマルコの腰に腕を回して抱き着くと、名無しさんは

「よく言うよ。ボア・ハンコックも顔負けなくらい上から目線でいろいろ言うくせに。」
と言ってクスクス笑う。そんな名無しさんをマルコはぎゅっと抱きしめた。
長年最前線で戦ってきた名無しさんの腕や足には傷跡がいくつもある。だが、少なくともマルコが治療の際に確認できた範囲では、名無しさんの腹部や背中にはそれほど目立った傷はなかった。だからこの銃弾の跡はかなり目立つのだ。少しでも傷跡が薄くなればと毎日のように再生の炎を当ててはいたが、この炎は己の傷を完治できても、他人の傷にはあまり効果がない。マルコは自分の能力に対してこれほど力不足を感じたことはなかった。

「前も言ったけど、たまたまマルコは再生できるから傷が残らないだけで、これ以上のケガを何度もしてるんだし。」

「再生するし、傷が残らねぇってわかってるから迷わず飛び込めるんだよい。」
マルコはそう言うと、チュッと音を立てて名無しさんの頬にキスをしながら、そっと抱きしめていた名無しさんの体を離した。

「オヤジんとこに行かなきゃならねぇ。」

「あ。そうだね。」
そう言えばさっき呼ばれていたことを思い出した名無しさんは、素直にマルコから体を離すと、

「さてっ!私も稽古だっ!」
と言って腕を回した。

「傷は治ったが、体はなまったままなの忘れんなよい。いきなり無茶してぎっくり腰とか肉離れとか、ババくせぇケガすんなよい。」

「ったく、誰が頭が上がらないだっ!」
立ち上がって部屋を出て行こうとするマルコの背中を名無しさんがベチンと叩くと、

「おー、怖ぇ怖ぇ。」
と笑いながら、マルコは名無しさんの部屋を出て行った。

船長室に向かう途中で、マルコははたと足を止めた。

(…全部解禁、なんだよなぁ…。)
名無しさんが飲めないからと、マルコも禁酒していた。だから、特に飲みに誘われているような予定もない。

(今晩一緒に飲もうって誘ってみるか…?)
とは思ったものの、酒が解禁になったことで名無しさんは仲間たちと大勢で飲みたいかもしれない。声をかけたら「みんなに声かけるね!」なんて言わないとも限らない。だからと言って、「オレの部屋で」とか「二人で」なんて誘い方をしたら…。

(下心ありありじゃねぇかい…。)
そう。いろいろなことを制限していたこともあって、マルコと名無しさんは相変わらずキスまでの関係だった。そんなにハードなことをさせる気も趣味もないマルコとしては、名無しさんの体をいたわりながら「そういうこと」をすることも可能だったし、そういう雰囲気になればきっと名無しさんも拒んだりしないだろうとは思っていたものの、やはりそこは医者として我慢をしていた。そして、何よりもあのケガの原因は自分なのだ。少しでも傷に響きそうなことはしたくなかった。

「どうしようかねぇ…。」
と口に出したところで、自分が白ひげに呼び出されていたことを思い出したマルコは、

「やべぇっ!オヤジにどやされちまう。」
と慌てて船長室に向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ