長い夢「何度でも恋に落ちる」

□海楼石
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その日の海軍との戦いは、白ひげ海賊団にしては珍しく苦戦するものだった。
そもそも敵船の数が多かったこともあるが、それ以上に、陣頭指揮をとっていた部隊が最新式の武器を所持した先鋭部隊だったのだ。いつもより厳しい戦況にあることを判断すると、普段はよほどのことがない限り定位置で酒を飲みながら戦況を眺めている白ひげ本人が立ち上がった。白ひげの動きを視界の片隅で確認したマルコが、すぐに白ひげのガード体勢に入ると、他の隊長陣もそれを察知してそれぞれ白ひげ参戦時の配置につく。

「親父が動くぞっ!巻き込まれねぇようにしろいっ!」

「敵船近くにいる奴らは一旦退避しろっ!」
マルコとラクヨウが隊員たちに親父の参戦を告げる。それを聞いた隊員たちが、お互いに声をかけて白ひげの攻撃に備える。
一方の海兵たちは白ひげ海賊団の動きに緊張が走り、身構え周りを不安そうに確認しだした。久々の激戦とは言え、ここまではよくある展開だった。
仁王立ちする白ひげを狙う銃弾にマルコが身を挺して援護に入った時だった。

「マルコ!!」
不死鳥マルコが銃弾を受けても何の問題もないと思って敵の方を向いていた隊長陣はただならぬ名無しさんの叫び声に振り返った。と、同時に視界に入ったのは、海に飛び込む名無しさんの姿。

「誰が落ちたんだ!?!」
そう叫んだエースの耳に信じられない名前が響いた。

「マルコ隊長ですっ!」

「はぁ?」
聞き間違いかと間抜けな声を上げたエースに、イゾウが叫んだ。

「エース!ジョズ!銃弾を避けろっ!海楼石だっ!」

「え?」

「海楼石?!」
イゾウが指をさした先には、敵陣の前線で兵士たちに守られながらこちらを狙う狙撃手らしき男たち数名が見慣れない銃を構えていた。

「親父を守れ!能力者は後退しろっ!」
そう叫んだイゾウが放った銃が敵の狙撃手の一人を仕留めた。

「マルコ!!名無しさん!!」
サッチの声に、皆が船の下を見ると、意識のないマルコの腕を自らの肩に担いだ名無しさんが海面から顔を出していた。

「サッチ!親父を頼むっ!ナミュール!マルコと名無しさんの援護だっ!」
イゾウはそう叫ぶと、近くの船からマルコ達を狙っていた狙撃手を撃ち落とした。同時にナミュールも海に飛び込む。
サッチは四番隊の隊員たちに白ひげの援護にまわるように指示を出してから、白ひげに銃口を向ける海楼石の銃弾を装備していると思われる狙撃手に向かって突っ込んでいった。

「名無しさん!」

「ナミュール!マルコがっ!意識がないのっ!」

「海楼石だっ!これじゃ海水から出しても再生できねぇっ!ここで引き上げるのは危険だっ!」
ナミュールはそう言うと、顔を上げて周囲を見回す。その瞬間、また一人、海面を狙っていた狙撃手をイゾウの銃弾が撃ち落とした。

「とは言え、ここは危険すぎる。名無しさん、思いっきり息を吸えっ!」
名無しさんはナミュールがどうするつもりなのかさっぱりわからなかったが、とにかく言われたとおりに大きく息を吸い込んだ。途端に、ものすごい勢いで海に引きずりこまれた。

(…っ!)
ナミュールの泳ぐスピードに全く目を開けることができなかった名無しさんは、いきなり顔が海面に出て大きく息を吸い込むと同時に咳き込んだ。慌てて周囲を見回すと、どうやら戦闘の最前線にいるモビーから数隻以上後方に離れた場所に連れてこられたようだった。

「とにかく、船にあげて銃弾を取り出さねぇと…。」
ナミュールがそう言って近くの味方の船を見上げた瞬間だった。ナミュールとは反対側、船のいない開けた海を向いていた名無しさんが目を見開いた。

「か、海王類!!」

「なっ?!」
慌てて振り返ったナミュールの視界に入ったのは、普通のクジラの十倍以上はありそうな大きな尾ひれのようなものだった。

「うわぁっ!」
海王類が潜ることでできた海流に引き込まれた瞬間、ナミュールは掴んでいたマルコと名無しさんの腕を離してしまった。

(しまった!)
ナミュールは慌てて体制を整えて二人を探そうとしたが、海王類の起こした海流に完全に飲み込まれてより深海へと引きずりこまれてしまった。何とか海面に上がったころにはどこにも二人の姿は見当たらない。それどころか、海面近くで大暴れする海王類に白ひげ海賊団も海軍もてこずっていた。その後、ナミュールは落ち着いてから近くの味方の船に確認を取るも、誰もマルコと名無しさんを見たものはいなかった。
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