長い夢「何度でも恋に落ちる」

□サッチの観察日記
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最近あいつらが一緒にいることが多い。
上陸すると、連れ立って歩いていくこともある。それに、どうやら二人で飲んでることもあるらしい。それまでだって別に仲が悪かったわけじゃねぇが、一番隊のことについて真剣に顔つき合わせて話し込んでいる以外であの二人が一緒にいるのをあまり見たことはなかったと思う。そう。険しい顔して話をしている(決して喧嘩してるわけじゃねぇが)ことが多いから、なんだか和やかに笑顔で話をしている様子を見るのは新鮮だ。

「でもなぁ…。」

「ん?」
一瞬エースは不思議そうにオレを見たが、すぐに前に向き直ると手にしていた握り飯を口に放り込んだ。

「ん?なんでこれは中になんも入ってねぇんだ?入れ忘れたか?」

「食材が足りなくなりそうだから、具が入ってんのは半分だけだ。」

「そうか。でも、米だけでもうまいぞ。塩加減がいい。」

「当たり前だ。誰が握ったと思ってんだ。」

「ぐがぁー。」

「…。」
ったく。相変わらず食いながら寝るって、どんだけ器用なんだよ。そう思いながらも、オレは食堂のちょっと離れたところでコーヒーを飲みながら話し込むマルコと名無しさんに視線を戻す。恐らく、最初はまた一番隊だか今後のモビーの進路だかについて話をしていたんだろう。が、いつものように名無しさんがコーヒーを淹れてきてそれを二人で飲みだすと、話題が変わったのか二人の表情が和らいだ。ここが天下の白ひげ海賊団の本船の中だなんて雰囲気を全く出さず、まるでどっかのこじゃれたカフェで茶でもしばいているみてぇに談笑してやがる。

「でもなぁ…。」

「何なんだよ、おまえ、さっきからぶつぶつと。」
いつの間にか復活して残りの握り飯を食うエースがオレを見た。隊員と訓練したら腹が減ったとやってきたこいつは、一人で山盛りの握り飯を「おやつ」として食っている。ま、各いうオレも、二番隊の奴が「今日こそエース隊長に一矢報いるぜっ!」と気合を入れるのをたまたま聞いて、大量に飯を炊いておいたってわけなんだが。用意周到。さすが、できる男サッチ様だ。

「いやぁ。最近、あいつら仲良くねぇ?」
食堂にはオレらのほかにマルコと名無しさんだけでなく、他の奴らも何人かいたのだが、オレの視線の先を確認したエースは、誰と確認せずに

「…そうか?前からしょっちゅう難しい顔してなんだか面倒臭そうな話してたじゃねぇか。」
と言った。

「そりゃそうだけどよ。今はそういう感じじゃねぇだろ?」

「んー。」
エースはしばらく二人を眺めていたが、

「まぁ、言われてみりゃそうなのか?」
と曖昧な返事をする。

「島に上陸した時も、時々一緒に出掛けてるんだぜ。」

「え?マジか?」
ここでやっと、握り飯を口に運ぶエースの手が止まった。

「ああ。一回や二回じゃねぇ。でもなぁ…。」

「…なんなんだよ、おまえ、さっきからその『でも』ってのは。」

「いやぁ…。明らかに今までより仲はよさそうなんだけど、なんかこう…。」

「ん?」

「色気がねぇ。」
エースは両眉を上げて一瞬固まると、無言のまま二人を眺めた。噂のふたりは何が面白れぇのか、声を出して笑いながら話をしている。ってか、あんなに大笑いするあの二人は珍しい。

「でもよ、ここ、食堂だぜ?」
困惑気味にそう言ったエースに、オレは大きくため息をつくと、

「確かにここでいちゃつかれても困るけどよ、そういう意味じゃねぇって。あるだろーが、いかにも『好きあってます』みたいな雰囲気がよ。」
と頬杖をついて二人を眺めながら言った。

「…んー?」
わかったような、わからないような。そんな顔をしたエースに

「坊主にはわかんねぇか。」
と思わず言っちまった。だが、いつもは若いことや人生の経験値が低いことを指摘されるとすぐにキレるエースが、特にオレに反論することもなく、どうでもよさそうな顔をしてコップの水を飲み干した。

「あー、うまかった。ごちそうさん!」

「おう。」
満足そうな顔をして食堂を後にしたエースに適当に返事をすると、オレは空になった大皿を持って立ち上がった。
あいつらの仲がいいのはとってもいいことだ。何しろ過去に何回かあいつらの意見が合わないだかで喧嘩になった時はそれはそれは周りは大迷惑だったからな。でも、くっついたら間違いなく面白いと思ってるオレにしちゃぁ、なんかもの足りねぇ。
確かに以前よりはいい感じになってるとは思うものの、やっぱりあいつらの雰囲気はどう見ても「男女の仲」とは程遠い。強いて言うなら…

「男と女の友情か?」
でも、それじゃぁ酒の肴にはなりやしねぇ。

「…つまんねぇなぁ。」
オレは思わずそうつぶやくと、厨房に戻って晩飯の仕込みの指示を出すことにした。
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