長い夢「何度でも恋に落ちる」

□隊長と隊員
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「…おまえら、白ひげのクルーか?」
その発言に男たちが顔を見合わせる。だが、すぐにマルコにいちゃもんを付けた大男が

「に、しちゃぁ、情けねぇ男だなぁ。女を見捨てて逃げるのか?」
とマルコを見た。

「お?いっちょ前に白ひげのマーク背負ってんじゃねぇか。」
シャツから見えた入れ墨に男の一人が反応する。

「こんなにでっかい入れ墨入れてんのに、ハッタリか?あ?白ひげ海賊団も大したことねぇなぁ。」

「どーせこの女だって、白ひげの名前でひっかけたんじゃねぇのか?なぁ?」
マルコと名無しさんはゲラゲラと笑う男たちを面倒臭そうな顔で眺めていたが、大男の次のセリフにそれまでむしろ面倒臭そうにしていた名無しさんの表情が一気に険しくなった。

「そもそもあの白ひげだって、もうじじぃだろ?過去の栄光にビビってるだけで、いつ死んだっておかしくねぇような年寄りじゃねぇか。そんなクソじじぃの名前背負って偉そうな顔してる奴らなんて、たかが知れて…。」
ガッという鈍い音が響くと同時に、大男の巨体が宙を舞った。

「え?」

「な、なんだ?」
男たちは何が起きたのか理解できず飛ばされた大男を振り返る。一人がバッと振り返ってマルコを見たが、マルコは両手に本を持ったまま、片足に体重をかけて突っ立っている。別の男が大男から振り返って名無しさんを見ると、名無しさんは片手を腰に当てて男を睨んだ。

「うちの親父が何だって?」
名無しさんは自分に振り返った男との間合いを一気に詰めると、その男の胸倉を両手でつかんだ。男の体が浮き上がる。

「え?あ、な、何だよっ。うわぁっ!」
そのまま名無しさんはその男を放り投げると、その体は先に吹き飛ばされて伸びている大男の上に重なるようにぶつかった。

「こ、このアマっ、ふざけんなっ!」
マルコを見ていた男が事態に気が付いて名無しさんに拳を振り上げて襲い掛かったが、名無しさんがカウンターで一発その男の顎にパンチをくらわすと、男はがっくりと膝を落として崩れ落ちた。

「てめぇらみてぇな雑魚に、白ひげ海賊団の隊長の手を煩わす必要はねぇんだよっ!」
いきなりの事態に硬直していた男二人が、そう吐き捨ててゆっくりと自分に向かってくる名無しさんからマルコに視線だけ移した。マルコは相変わらず両手に本を持ったまま、面倒臭そうに騒ぎを見ている。

「おい。腹減った。早くしろよい。」

「はいはい。わかりましたー、マルコ隊長。」
名無しさんが口をへの字に曲げてそう言うと、

「た、隊長?あ、あいつ、白ひげ海賊団の隊長なのか?」

「マルコ…。マ、マルコって、不死鳥マルコか?」
完全にへっぴり腰になった男二人が口々に言った。

「ちょっと。あんたたちの相手は私でしょ?一緒に遊んでくれるんじゃないの?」
その声に、マルコに気を取られていた男どもが慌てて前を向くと、ニヤリと不敵に笑った名無しさんが目の前に立っていた。

「あ…。ぐあっ!」
名無しさんは立て続けに目の前の二人の腹に蹴りを入れると、膝をついてうずくまる男のわき腹にもう一発蹴りを入れた。

「私らの前で親父を馬鹿にして、生きていられると思ってんの?」
仁王立ちで名無しさんがまだ意識のある男二人を見下ろすと男たちはしりもちをついたまま、ずりずりと後ずさった。

「女の私相手にこれじゃぁ、お話にならないわね。」

「ひ、ひ、ひぃぃぃっ。」
男たちは何とか立ち上がると、伸びている仲間を置いて逃げ出した。

「…手ごたえなさすぎなんだけど。」
逃げていく男の背中を見て名無しさんがつまらなさそうにそう言うと、

「『女の私相手に』云々は大分誇張された表現だよい。これじゃまるでおまえが白ひげ海賊団の中で下っ端みてぇに聞こえるじゃねぇかい。」
とマルコがニヤニヤしながら言った。

「いいじゃない。私より強い人がたくさんいるのは事実でしょ。」

「…隊長と親父、その他数名だろい。それに、誰もおまえを女扱いしちゃいねぇよい。」

「む。」
名無しさんがじろっとマルコを睨むが、マルコは涼しい顔をしたまま

「ほら、さっさと本を船に置いて、飯を食いに行くよい。」
と言うと、モビーに向かって歩き出した。

「ちょっと、待ってよ!」
名無しさんが慌ててマルコの後を追いかける。一瞬、「なんであんたと晩御飯食べることになってんのよっ!」と文句を言おうかと思ったが、今日買った本の話をしながら酒を飲むのも悪くないと思った名無しさんは、マルコの横に並ぶと、

「今日は何食べる?」
と言ってマルコの顔を見上げた。
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