長い夢「何度でも恋に落ちる」

□隊長と隊員
1ページ/2ページ

名無しさんがノックも無しにマルコの部屋の扉を開けた時、マルコは先日買った医学書を開いているところだった。

「…ノックくらいしろよい。」
マルコの文句に名無しさんはニヤッと笑うと、

「開けてほしくない時は、ちゃんと鍵がかかってるからね。」
と言って、マルコの図星とも不満とも言えそうな顔を全く気にすることなく続けた。

「あの古本屋、もう一回行こうと思うんだけど、行かない?」
その誘いに、マルコは名無しさんはまた何かを見つけたのだろうか、と思ったが、

「マルコは医学書ばっかり見てたから気が付かなかったかもしれないけど、あそこ、ミステリー系の本も結構充実してたんだよね。」
と名無しさんが付け足した。

「きっとまとめて買ったらまたオマケしてくれそうじゃない?それに、どうせ私が買ったのも、マルコが買ったのもお互いに読むんだし。」
ニコニコと言った名無しさんに

「それに、一人で全部持つのも重いって言いてぇんだろい。」
とマルコが皮肉を言うと、

「そういうこと〜。」
と名無しさんは笑った。


古本屋に入ると、店主が快く二人を迎えた。名無しさんがマルコを先日の医学書の棚とは別の本棚に連れて行くと、しばらく二人は黙々と本を棚から引っこ抜いては吟味した。時々マルコが手にした本を名無しさんに見せてすでに持っているかどうかを確認したり、逆に名無しさんがマルコに「この作者の本を読んだことはあるか?」と聞いたり。そんな作業を小一時間ほど続けた後、二人はそれぞれ本を数冊ずつ抱えて古本屋を後にした。

「またオマケしてもらっちゃったね。」

「ああ。気前のいいおっさんだよい。」
そんな話をしながら、いい買い物ができたことでご機嫌の二人はすでに薄暗くなった道を並んで歩いていた。行きがけはまだ日も高かったこともあって明るかった道は、日が沈むと全く雰囲気が変わっていた。昼間は寝ていたであろう薄汚い恰好をした男が、酒瓶片手にフラフラと歩いている。
だが、腕に自信がある上に、こんな風景は慣れっこな二人はまるで大草原の中を歩くように本を片手にさっそうと歩いていた。薄暗い道がにぎやかな繁華街(むしろ、風俗街)になり、さらにそこを抜けると、また薄暗い人気のない道に変わった。そこで、前から大柄な男がフラフラと歩きながら、マルコの方に近づいてきた。

「おっと。気をつけろよい。」
マルコはひょいとその大男を避けると、そのままやり過ごそうとしたが、男は振り返って

「あぁ?」
と大声を上げた。
マルコがチラッと後ろを振り返ると同時に、名無しさんはさも面倒臭そうな顔をしてため息をついた。

「おいおい。今オレに気をつけろって言ったのか?あぁ?」
名無しさんはチラリとマルコの胸元を見る。ちょっと肌寒いこともあって、いつも堂々と自己主張している入れ墨は紫色のシャツに半分隠れている。しかも、ここは薄暗いからよく見えない。

(…だからか…。)
あれが出ていればかなりの虫よけ効果があるのに、と思いながら名無しさんはマルコをちらっと確認すると、マルコも面倒臭そうな顔をして肩をすくめた。だが、次の大男のセリフに、名無しさんはさらにうんざりさせられた。

「オレに喧嘩売ってそのままやり過ごせると思うのか、って言おうと思ったが…。いい女連れてんじゃねぇか、なぁ、兄ちゃん。」
大男がそう言うと、にたりといやらしい笑みを見せる。と、横の細い路地から「いかにも」な感じのガラの悪い男どもが4、5人現れて大男の横に並んだ。

「よかったなぁ。いい女って言ってもらえて。」
マルコがそう言って笑うと、

「…マルコより女を見る目があるみたいね。」
と名無しさんが仏頂面で答えた。

「その女を置いて行くなら、このまま無傷で解放してやっても構わねぇぜ。」

「姉ちゃんも、オレらと遊んだほうが楽しいよなぁ。」
ニタニタと笑う男どもが好き勝手に言うのを聞きながら名無しさんは再び大きくため息をつくと、

「どうする?先帰ってる?」
とマルコに声をかけた。

「オレはどっちでも構わねぇよい。って言うか、その本が汚れちまうことの方が嫌だねぃ。」
マルコはそう言って顎で名無しさんの手にしている本を指す。

「あ。そうだね。じゃ、ちょっと持っててよ。」

「ああ。さっさと済ませろよい。」
マルコが本を受け取りながらそう言うと、

「先にモビーに帰っててもいいよ?」
と名無しさんが言ったのを聞いて、男の一人が声を上げた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ