長い夢「何度でも恋に落ちる」

□パパとママ
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サッチが昼食の片づけを終えて食堂を覗くと、マルコと名無しさんが向かい合って座って真剣に何かを話し合っていた。

(…実は一緒にいることが多いんだよなぁ。)
先日のマルコと名無しさんがつきあえばいいんじゃないか、という話を思い出しながらサッチは二人を眺めると、二人が座っている席に足を向けた。

「よぉ。何熱く語り合ってんだよ?二人の将来か?」
そう軽い気持ちで冷やかしたサッチだが、

「は?何言ってんの?私たちの将来は海賊王になった親父を見ることでしょ?何を語り合う必要があるの?バカじゃない?」
という名無しさんの冷淡な返答に一蹴された。

「…相変わらず容赦ねぇな。」

「おまえが真昼間からバカなこと言うからだい。」
マルコにまでバカ呼ばわりされたサッチは名無しさんの横に座ると、気を取り直して

「で?何を話し込んでるんだよ?」
と改めて聞いた。

「ちょっとね…。一番隊の中で喧嘩って言うか、そりが合わない奴らがいてさ…。」

「ことあるごとにお互いに難癖つけて喧嘩になるから困ってるんだよい。」

「なるほどな…。」
うんざり、という顔をしながらそう説明した名無しさんとマルコをサッチがぼんやりと眺める。一方二人はこうなったら一度勝負させて無理やりにでも上下関係を構築してしまうか、とか、むしろこれ以上トラブルを起こしたら他の隊に移すと脅すかなど、あーでもない、こーでもない、と議論を続ける。

「あ。サッチ、もう厨房落ち着いた?」

「あ?ああ。片付いたはずだぜ。」
いきなり名無しさんに問いかけられ、サッチが返事をすると、名無しさんは無言で立ち上がった。おいて行かれた形のマルコは、

「全く…面倒くせぇ奴らだよい。」
とぶつぶつ言っている。
しばらくして、名無しさんがトレイにマグカップを3つ乗せて戻ってきた。無言でマルコの前にコーヒーの入ったマグカップを置くと、

「飲むでしょ?」
と言って、サッチの前にも同じものを置く。

「おお。すまねぇな。」
礼を言ったサッチにたいして、マルコは無言のまま考え続けているようだが、置かれたマグカップに手を伸ばして口元に運ぶ。なんとなーく、サッチは、「お礼くらい言いなさいよっ!」と怒鳴る名無しさんを想像したのだが、名無しさんは無言のマルコを気にするそぶりも見せず、自分もコーヒーを飲みながら「もう、喧嘩両成敗しかないんじゃない?」なんて言っている。
その様子を見て、サッチが思わず口を開いた。

「何か、おまえら熟年夫婦みてぇだな。」

「「…。」」
マルコと名無しさんが顔を見合わせる。

「夫婦とかまずありえないけど、相手の性悪な嫌味もスルーできるのは長いこと耐えてきたからかしら?」
コーヒーを飲みながら涼しい顔をした名無しさんがそう言うと、

「もう相手を見ても何の性欲もわかねぇって意味なら間違ってねぇよい。」
とマルコも名無しさんに視線を移すことなく言った。
そんなマルコの嫌味に名無しさんの肩眉がピクリと動く。

「それはもう、枯れてしまって使い物にならないってこと?可哀想に。」

「根本的な問題じゃなくて、おまえ限定の現象だよい。」

「そう?ま、精神的に負い目を感じている相手には反応しないって人もいるもんね。」

「それは存在がうぜぇって意味かい?」

「散々人に相談に乗ってもらっといて、その人に対してうざいって、人としてどうなの?何?やっぱりあんたの頭は鳥なわけ?」

「あーはいはいはいはい。オレが悪かった!オレだよ!悪いのはっ!」
ヒートアップする嫌味の応酬にとうとうサッチが間に入る。

「そうね。サッチが余計なこと言いださない限り、業務においてはもめることはないんだけど?」
名無しさんがじろっとサッチを睨むと、

「全くその通りだよい。」
とすぐさまマルコも同意する。

「おまえら、何でこういう時はすぐに意見が一致すんだよ。」

「意見が一致したんじゃなくて、サッチが悪いってのが事実なだけでしょ。」
すぐさま突っ込み返されたサッチはもう何も言うまい、と口を閉じる。
と、そこへ一番隊の隊員数名が飛び込んできた。

「マルコ隊長!名無しさんさん!またあいつらが取っ組み合いの喧嘩を始めてっ!!」

「このままじゃ船を壊しちまう!」
マルコと名無しさんの見つけるなりそう叫んだ隊員に、二人は顔を見合わせると、同時に立ちあがった。

「もう、ごちゃごちゃ考えんのが面倒くせぇ。もう鉄拳制裁で構わねぇかい?」

「同感です。隊長。お手伝いします。」
コキコキと首を鳴らしながら歩きだしたマルコの横に、肩を回しながら名無しさんが並ぶ。

「こっちですっ!」
と先を行く隊員について、マルコと名無しさんが食堂を後にする。

「あーあ。あの二人を怒らすなんて、馬鹿な奴らだぜ。」
そんな二人を見送ったサッチがそうつぶやくと、まだサッチの横に立っていた一番隊の一人がニヤリと笑った。

「大体父ちゃんが怒ると母ちゃんがかばってくれたり、その逆もしかり、なんっすけどね。それに甘えて父ちゃんも母ちゃんも怒らしちまった奴は痛い目を見るんっすよ。」

「…父ちゃんと母ちゃん?…え?一番隊って、そう呼んでんの?」
サッチが驚いて首を横に向けると、一番隊の奴は

「若ぇのにしてみりゃ、親父はもう『おじいちゃん』くらいの年の差じゃないですかい。そうなると、面倒見のいい隊長と姐さんは兄弟ってより、完全に親みたいなもんなんっすよね。あ。二人には内緒っすよ?」
と言って笑った。

「…マジかよ。」
サッチはそう言ってふっと笑うと、

(知らねぇ間にガキまでいんのかよ。って言うか、どれだけ子だくさんなんだ?)
なんて思いながら、今度この事実をエースとラクヨウにも報告しきゃな、とニヤニヤと笑いながら厨房に戻った。
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