長い夢「何度でも恋に落ちる」
□嫌味な男と男前な女
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「まーた、真昼間からそんなの見てぇ。食堂だよ、ここ。」
「うぉっ!」
「やべっ!」
「うわぁっ!…って、何だ、名無しさんかよ。」
「何だって何よ、失礼な。」
「てっきりナースかと思ったぜ。」
「え?何?一応彼女たちには見られたくないんだ。」
名無しさんがそう言うと、
「そりゃ、おめぇ、一応、な。」
とラクヨウが居心地悪そうに答えた。
「ふーん…。」
と言いながら名無しさんがエースの手元の雑誌を覗き込む。
「別にやばい趣味とかじゃないんじゃん。普通じゃない?」
名無しさんの目に入ったのはモデルのようにきれいなお姉さんの裸体。変な衣装を着ているわけでも縛られてるわけでもなさそうだ。
「…ま、そうだけどよ。そんなふうに冷静に言ってくれる女はおまえしかいねぇよ。」
サッチが苦笑いすると、
「まー、ある意味名無しさんは健全な男子の生態をよくわかってるからな。」
とラクヨウが笑った。
「何が、『男子』だ。おっさんどもめ。」
「おい、オレもおっさん扱いなのかよ。」
名無しさんの突っ込みにエースが反論すると、
「そこはおまえ、オレらが若いんだろ?なぁ?」
「そうだ、ラクヨウ、いいこと言うぜ。」
「アホらし。」
小ばかにしたようにそう言うと、名無しさんがエースの雑誌を奪った。
「おいっ!」
「っていうかさー。現実にはこんなスタイルのいいおねぇちゃんはあんまりいないよ?女としてはこんなのを基準にされる方が大迷惑だよ~。この胸だってさー、絶対なんか入ってるよね~。」
そう言いながらペラペラと名無しさんが雑誌をめくると、
「…おまえ、とうとう女を捨てたのかい?」
と言いながらマルコが名無しさんの横に座った。
「失礼ね。現実には天然でこんなにきれいな女の子を見つけるのは難しいんだよって、夢見がちなおっさんたちに目を覚ませって言ってるの。」
「おい、だから、オレをおっさんにすんなよ。」
エースの反論をスルーして、
「それで言ったら、女だってイケメンマッチョだらけの雑誌とか見てるじゃねぇか。」
とサッチが不満そうに口を挟んだ。
「ま、そういう人もいるけど…。でも、実は、顔だけおいといたら海賊はみんないい体してるからねぇ。顔は置いといたらね。」
「…顔を何度も強調すんじゃねぇ、感じ悪いぞ。」
ラクヨウが不満そうに文句を言うと、名無しさんはケラケラと笑った。
「ま、でも、妙に顔が可愛いのにマッチョなのも気持ち悪いけどね〜。個人的にはきれいすぎる顔とかも苦手だから私は全然興味ないけど。」
「この前ナースたちは男だか女だかわかんねぇようなアイドルグループの写真見て騒いでたけどな。」
エースが思い出したようにそう言うと、
「ああ。見た見た。」
と名無しさんが嫌そうな顔をして言うから、
「なんだい、おまえはああいうのは興味ねぇのかい?」
「『きれいな男の子をペットにしたいわ』とか言いそうだけどな、おまえ。」
とマルコとサッチが突っ込んだ。
「ないよ。私、ああいう薄っぺらい胸板には興味ないの。見せるための筋肉なんて、邪道だわ。」
「お。たまにはいいこと言うじゃねぇか。」
「多少殴っても壊れないのじゃないと。」
「…やっぱ怖ぇな、おまえ。」
サッチが顔を引きつらせると名無しさんがサッチのお腹を指でつついた。
「…せっかくの筋肉がちょっと隠れてるようですが?」
「殴っても壊れねぇように、防護壁がついてんだよっ。」
「覇気使えよ。」
「いきなり正論?」
「確かに、ちょっと丸くなってねぇか?」
「うるせぇ、ラクヨウ!黙ってろっ!」
サッチとラクヨウの言い争いを笑って名無しさんが見ていると、
「じゃ、名無しさんは海賊の男がいいのか?」
とエースが名無しさんに聞いてきた。
「…え?うーん…。海賊がいい、ってわけじゃないけど…。だからと言って、海軍に惚れることもないだろうしね。結果的にそうなるのかな?」
「海軍に気に入った奴とかいたら、攫ってきて海賊にしちまいそうだな。」
「えー。海兵を気に入るなんてまずないよ。私一目ぼれとか絶対しないもん。海軍と『お友達から』なんて絶対にありえないじゃん。」
「ガハハハハっ!確かになっ!合コンするわけにもいかねぇしな!」
ラクヨウがそう言って大笑いする。
「でもなー。海賊は海賊で頭の悪い奴が多いからなぁ…。私、バカは嫌なのよね〜。」
そう言いながら名無しさんがちらっとサッチ、エース、ラクヨウを横目で見る。
「何だよ、その視線。」
「オレらの頭が悪ぃって言いてぇのかよ。」
「べっつにー。」
「そもそも、海賊に知性を求めんじゃねぇ。」
「そうだ、そうだ!ラクヨウの言う通りだっ!」
「海賊が全員頭悪ぃみてぇに言うんじゃねぇよい。」
「…ここにいたな、インテリ海賊。」
サッチが忌々しそうにマルコを見る。