続いてる夢
□幻獣の縄張り
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「あの…。マルコさん?」
「なんだよい。」
「寝るなら、部屋に行けば?」
「こんなに天気がいいのに、薄暗い部屋にこもるのはもったいねぇだろい。」
「だったらあっちの椅子に座るとかしない?」
「直射日光が当たるだろい。」
「じゃぁ、あの椅子をこっちに持ってこない?」
「もう動くのが面倒くせぇよい。」
「私、まだいろいろとやらなきゃならないことがあるんだけど…。」
「後回しにして構わねぇよい。」
「え?急ぐ案件だよ?」
「最後にオレが頑張りゃいい話だろい。」
「むぅ…。」
何を言っても完璧に反論されて、名無しさんは唸った。
そう。発端は数分前。お昼ご飯を食べて、甲板の日陰に座って春島の気候を満喫していた名無しさんのところに現れたマルコは、どっかりと名無しさんの後ろに座り込んだかと思うと、長い脚を名無しさんの両脇に投げ出してがっちりと名無しさんを抱え込んだのだ。
「ちょ、ちょっと!マ、マルコ?!」
人目をはばからずいきなり抱き着いてきたマルコに驚いて名無しさんが振り向こうとすると、マルコは名無しさんの腹に腕を回してその体を自分に引き寄せて、名無しさんの肩に顎を乗せた。
「いい天気だよい。」
「は、恥ずかしいよっ!」
「オレらがつきあってることは皆知ってんだ。別に問題ねぇよい。に、しても食後にこの気候はやべぇよい。」
そう言って、マルコは顎を名無しさんの肩に乗せたまま大きなあくびをした。さらにぎゅっと抱き着いてきたマルコの体重が自分にかかるのを感じて、冒頭の会話が始まったのだ。
「だ、だから!恥ずかしいんだって!」
ここではなく別の場所で昼寝をさせようという作戦が見事に失敗した名無しさんは、正直にそういって自分の腹に巻き付くマルコの手をどけようとする。
「慣れろ。」
「は?」
「そのうち周りも慣れるよい。」
「いや、そんな…。」
気になって名無しさんがあたりを見回せば、ニヤニヤ笑う奴やら、呆れたような顔をする奴。これがサッチならきっと「サッチさん、そういうは自分の部屋でやってくださいよ〜。」とかってからかってくる奴もいるんだろうが、何しろ相手はマルコだ。いろいろ言いたそうな顔をしてはいるが、声に出してまで言う奴はいない。と、言うか、珍しいもんを見た、って顔をしてる奴らの方が多いかもしれない、と思いながら、名無しさんが首を動かすと、視界にイゾウが入った。
「イゾウ、助けてよっ。」
名無しさんが情けない声を出すと、腹に巻き付くマルコの腕がぐっと締まった。
「うげっ。」
「助けてってなんだい。失礼な。」
「もぉーっ!」
「グダグダ言ってると、この場で押し倒すよい。」
「えっ!?」
「そうすりゃ、みんな気ぃ使っていなくなるから、おまえも文句ねぇだろい?」
「…絶対ヤダ。」
「じゃ、大人しくしてろい。」
「…。」
もうどうしていいかわからず、思いっきり不満を顔に出すと、後ろから押し殺したように笑う声が聞こえた。振り返らなくても誰だかわかった名無しさんは
「笑ってないでなんとかしてよ、イゾウ。」
とふくれっ面で言った。
「申し訳ねぇが、後でマルコに恨まれるのは嫌だからねぇ。」
「薄情者。」
「誰だって自分の身が一番かわいいさ。」
「ちょっと黙ってろよい。これじゃうるさくて眠れねぇよい。」
「ああ!もう!だったら自分の部屋で寝ればいいでしょっ!」
「何だい、おまえはさっきの問答をまた繰り返す気かい?」
「あー、はいはい!もう、わかったから黙って寝て!」
「わかりゃいいんだよい。」
そう言うとマルコは名無しさんを抱えなおしてから、チュッと音を立てて名無しさんのほっぺたにキスをすると、満足げに目を閉じた。
「なっ!…。…はぁ。」
名無しさんは盛大にため息をつくと、こうなったらもう自分も寝てしまうしかないと腹をくくった。
「名無しさんも大変だな。」
二人に背を向けて甲板を回り込んで来たイゾウにビスタがそう声をかけると、
「あんなに縄張り意識の強ぇ鳥は初めて見たぜ。ここぞとばかりに『オレの物』アピールだ。」
とイゾウが笑う。
「何しろただの鳥じゃなくて幻獣だからな。いろんな意味で普通ではないんだろう。」
「ああ。なるほどねぇ…。」
イゾウは懐からキセルを出すと、ポンポンと中の灰を叩き落した。新しい葉を詰めて火をつける。
「海賊船だってのに、今日も平和さねぇ…。」
そうつぶやくと、イゾウは空に向かって煙を吐き出した。