続いてる夢

□大馬鹿野郎の恋@
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10年くらい前だっただろうか。
名無しさんに告白された。
驚いた、ってのが正直な感想だったが、そこそこ仲もよかったこともあってか、悪い気はしなかった。あまり女として意識したことはなかったが、あくまで仲間としてだが、どちらかと言えば好きだったし、半分興味本位的なこともあって「つきあってみるか」くらいな気持ちで受け止めた。
上陸して適当に女を買ったり、ひっかけたりなんてことはそれなりにやってはいたが、基本的に海の上で移動を続ける身のオレに、それまで特定の女がいたことはなかった。そういう意味では名無しさんは「初めての彼女」だった。

最初こそ、それは新鮮だった。それまであいつを女として意識したことはなかったが、だからと言って女に見ねぇわけでもなく、若さもあって何の疑問もなくことに及んだ結果、思いの外満足できた。上陸しなくても船の上でいつでも女を抱けるってのもいいもんだった。
名無しさんと一緒にいるのは悪くはなかった。すでに賞金首だったオレからしてみれば、あいつとなら一緒にいても完全に気を抜くことができたし、親父が最優先であることの説明もいらねぇ。
だが、「彼女」がいる以上、街で女を買うわけにもいかず、仲間たちが街に繰り出す輪の中に入れねぇもどかしさを日に日に感じていた。サッチなんかが、「おまえはこっちに来ちゃやべぇだろうが」と嫌みっぽく言うのも癪に障った。
そして、確かに名無しさんとの時間は陸の女とでは絶対に不可能な安心と安らぎの時間ではあったが、そんなものよりもいろんな意味で刺激を求める自分がいた。オレの首を狙う女との駆け引きや、賞金額で男の価値を判断する女どもがすり寄ってくる快感。思えばオレは若かったんだろう。次第にオレは「彼女」がいることで強いられる我慢に耐えられなくなっていた。数か月ほどして、オレから名無しさんに別れを告げた。
もしかしたらオレの気持ちの変化を名無しさんは感じ取っていたのかもしれねぇ。オレが別れを告げると、名無しさんは「わかった」と静かに答えただけだった。これからも同じ船に乗り続けるし、毎日顔を合わせることになるのは間違いなかった。何よりも、名無しさんは一番隊の隊員だ。オレは変に関係がこじれることを恐れていた。どちらかに決定的な否があってあって、盛大な喧嘩をして別れる方がこんな曖昧な別れ方よりもいいのかもしれねぇと思ったくらいだったから、オレを問い詰めることもなく、そして、別れを告げた日以降も普通に接してくる名無しさんに内心ほっとしていた。
むしろ、しばらくの間若干元気がねぇように見えたくらいで、大して変わらない様子の名無しさんに複雑な心境になったことを覚えている。
とは言え、希望通りの自由を得たオレは、その後好き勝手にやっていた。たまに、あっちが勝手にオレの女だと自称して面倒になったこともあったが、基本的には陸の女以外に手を出すことはなかったから、船が出ちまえば二度と会うこともねぇ。結果的に、いわゆる「彼女」と呼べる存在は名無しさんが最初で最後だった。それでも、オレは名無しさんと別れたことも、その後「彼女」がいなかったことも特に後悔することはなかった。
そう。ここ最近までは。
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