続いてる夢
□聞かれていたのは
1ページ/6ページ
気分のいい飲み会だった。
「サッチ、おまえんところの新人、今日は大活躍だったよい。」
「おおー!あいつだろ?そうなんだよっ!相変わらずよく見てんなぁ、マルコ!」
ジョッキをもって嬉しそうに乗り出してきたサッチに、
「マルコが褒めてたって伝えてやれば、きっと喜ぶだろうな。」
とビスタもワイングラス片手に口角を上げた。
「でもよ。あいつには気を付けたほうがいいぜ。」
サッチがニヤリと笑う。
「…。いい奴そうに見えるけどねぃ…。」
「いい奴だぜぇ〜。でも、特にマルコは気を付けねぇとな。」
何だ?オレはなんかあいつに恨まれてでもいるのか?
「『名無しさんさん、いいっすね。彼氏とかいるんっすか?』だとよ。」
「ぶっ!」
思わずオレはビールを噴き出した。
「きったねぇな!っていうか、動揺しすぎだろ?」
「べ、別に動揺なんてしてぇねよい!おまえが想定外のこと言うからだい!」
「安心しろ。『あいつは恐怖の青い鳥のもんだからやめとけ』って言っといてやったからよ。」
「な!?べ、別にオレはあいつとは何も…。」
オレがそう否定すると、さっきまでちょっと離れたところで飲んでいたはずのエースがジョッキ片手にオレの方へやってきた。
「えー?そうかぁ。何もないにしちゃぁ、オレが名無しさんにちょっかい出すと、怖い顔して睨まれるよなぁ?」
ちっ!何なんだ、エースまでっ。っていうか、おまえはいつも名無しさんに近ぇんだよっ!って内心悪態をつくが、それを言っちゃあすべてを認めることになっちまう。
「しかもよぉ、名無しさんの奴も、『マルコが困るから早く書類だせ』とかって何かとマルコの肩ばっかり持つんだぜ。」
「そりゃ、やることやんねぇてめぇが悪いんだよい。」
「何だよ!この前オレが珍しく早く仕上げて自分で持っていったらすっげぇ嫌そうな顔してたじゃねぇか!本当は名無しさんにもってきてもらいたかったんだろ?」
「うるせぇよい!!」
「うるさくねぇぞ、マルコ!どうなんだよ!」
「そうだ、そうだ!なんだか最近いい感じじゃねぇか!」
「この前の飲みん時も隅の方で二人でしっぽり飲んでたじゃねーかよっ!」
「この前上陸した時も、二人で歩いてたって聞いたぞ!」
「おぅ、マルコ!吐け!どうなんだ?名無しさんとはどうなんだよっ!」
何でサッチとエースにここまで詰められなきゃなんねぇんだよい!オレは思わず、
「だから!オレはあんな色気もねぇガサツな女には興味ねぇんだよい!」
と叫んだが。
サッチとエースは「嘘つきやがって」って顔でオレを見ている。
しかも、ここでオレは意外なところからとどめを刺された。
「いつだったかねぇ。おまえさんは結構酔ってたから覚ちゃいねぇかもしれねぇが…。『コーヒー飲みながら上目遣いで見られるとたまんねぇんだよい。』なんて言ってたじゃねぇかい?」
振り向けば、イゾウがキセルをふかしながら涼しい顔をして海を眺めていた。
「「へ〜。」」
サッチとエースがニヤニヤしながらオレを見ている。ハルタに至っては遠慮なく声を上げて笑ってやがる。
「う、うるせぇよい!ああ見えて、意外と気が利いていい奴なんだよい!」
「そりゃみんな知ってるぜ。中身は超男前だけどいい奴だし、見てくれは悪くねぇしな。」
サッチは何を今さら、って顔をしてそう言った。
「つまりはマルコは名無しさんが好きなんでしょ?」
まだ目じりに涙がついたままのハルタがそう言うと、全員の視線が一斉にオレをとらえた。
「…。な、なんなんだよい。」
「好きなんだろ?」
サッチがオレをひじで小突いた。
「ほらほら、認めろよ、マルコ〜。」
エースがニヤッと笑う。
「そうだよ。オレらも協力してやるよ〜。」
ハルタはさも他人事のように棒読みでそう言った。
「男らしくはっきりさせたらどうなんだ?」
な、なんだ、ビスタ、おまえまでそんなことを言うのかよいっ!
「あああ!そうだい!オレは名無しさんが好きだよいっ!悪いか!」
そう言ってジョッキに残っていたビールを飲み干すと、
「悪かねぇ。いい話じゃねぇかい。みんなおまえを応援してるぜ。」
とニヤッと笑いながらイゾウが言った。
「でもよ、オレらが虫を追い払い続けんのも大変だからな。さっさと堕としてくれよ。」
サッチがオレのジョッキに酒を注ぐ。
「ま、ほぼ大丈夫だとは思うけどよ。万が一ふられた時は、全員で愚痴聞いてやるぜ。」
「…。お、おぅ。」
こりゃさっさと名無しさんを堕とさねぇと格好つかねぇな、と思ったオレは、また満杯になっていた目の前のジョッキを一気に空にした。