続いてる夢
□聞こえたのは
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ちょっと面倒な敵船の襲撃をに勝利し、みんな機嫌よく、豪快に飲んでいる時だった。
「おーい。名無しさん、大丈夫か?」
「大丈夫〜。トイレー。」
ちょっと飲み過ぎたから、トイレだと言って飲みの輪から抜け出すと、食堂で空のジョッキに水を入れて少し甲板で涼むことにした。
「はぁ〜。」
水を半分ほど飲み干すと、手すりに寄り掛かって海を眺める。
と、そこで、ゲラゲラと男たちの笑う声が響いた。どうやらこの裏のあたりで飲んでる連中だろう、と思ったら、想いを寄せる人の聞きなれた口癖が聞こえた。
「うるせぇよい!!」
「うるさくねぇぞ、マルコ!どうなんだよ!」
「そうだ、そうだ!なんだか最近いい感じじゃねぇか!」
マルコにエース、サッチだな。みんな、楽しそう。思わずこっちも笑みが漏れる。
「この前の飲みん時も隅の方で二人でしっぽり飲んでたじゃねーかよっ!」
「この前上陸した時も、二人で歩いてたって聞いたぞ!」
え?
「おぅ、マルコ!吐け!どうなんだ?名無しさんとはどうなんだよっ!」
もう、頭の中では「うひゃー!」という声だけが響いていた。だが、次に聞こえた声に私は固まった。
「だから!オレはあんな色気もねぇガサツな女には興味ねぇんだよい!」
私はふらふらとさっきまで飲んでいた場所に戻ると、ジョッキの中に入っていた水を飲み干して、すぐにそれを新しい酒で満たした。
「あー。気持ち悪ぅ…。」
二日酔いの体を無理やり引きずって食堂に向かう。食欲なんて全然なかったけど、こんな時は少し食べたほうが後が楽だから、スープとか、軽めのものをトレイに乗せて席に着いた。
きっと昨日はみんな結構飲んだんだろう。いつもより食堂にいる人間が少ない気がする。
「はぁ。」
だらだらと目の前の食事を食べながら、昨日のことを思い出す。
いい感じだと思ってたんだけどな。あいつらも言ってたみたいに。でも、どうやらそういうんじゃなかったってことだ。確かに、私たちは一緒にいることが多い。マルコから声をかけてくることも結構ある。だから、私は勘違いしかけてたけど、よく考えればそれが必ずしも女扱いされてるってことかっていうと、そういうわけじゃない。
「ああもはっきり言われちゃね…。」
しかも、色気がないのもガサツなのも自覚がありありだ。おっしゃる通り、としか言えない。
「はぁ…。」
今日何度目だかわからない盛大なため息をつくと、ガタン、と音がして
「何朝から辛気臭ぇ顔してんだよい。」
とマルコが向かいに座った。
おまえのせいだよ、と思ったものの。歪みそうになる顔をポーカーフェイスで覆うと
「二日酔いです〜。」
と返事をしながら、食べるスピードを少し上げる。
「ハハっ。昨日はみんな飲みまくってたからねぃ。次の島まで酒がもつか心配だよい。」
私の気分はどん底だったが、マルコはご機嫌だった。二日酔いとは無縁らしい。
「次の上陸はいつなの?」
「あと1週間くらいだよい。」
「そっか。ご馳走様。」
私は手を合わせると、トレイを持って立ち上がった。一瞬マルコは目を丸くして私を見たが、何も言わなかった。きっと、いつもなら先に食べ終わったってしばらく一緒に座っているのに、さっさと立ち上がったからだろう。背中に感じる視線を無視して、私は部屋に戻った。
それから、当たり前だがマルコはいつも通りに声をかけてきた。っていうか、むしろいつもより馴れ馴れしいような気がしたのは、私がいろいろと意識し過ぎていたからだろうか。一方の私は今までだったら「いい感じ」になれるかも、と期待をしていたような場面に出くわさないよう、それとなくマルコを避けた。飲みの時も隊長たちの輪に入らずにナースの中のガールズトークを楽しんでいるふりをしたり、食堂でもなるべく隣や向かいの席が空かないように仲間たちの輪に突っ込んだり。部屋に閉じこもるマルコにコーヒーを飲まないかと声をかけたり、エースやサッチの書類を持って行ってやったりするようなこともやめた。甲板で一人涼んでいるとよくマルコに声をかけられたから、部屋の中に閉じこもるようにした。
私の陰口を言ってたから嫌いになったとかそんなんじゃなくて、(あんな大声で叫んだら陰口でもなんでもないし。っていうか、みんな周知の事実だし。)ちょっと距離を置きたかった。ちょっと前の「いい感じ」を勘違いをしていた私はかなり前のめりになっていたから。チャンスがあれば気持ちを言ってもいいだろうか、とまで考えていたから、そんな前のめりの体を一気に後ろに引き戻されてわけがわからなくなったこの状態を落ち着かせる時間が欲しかった。
ちゃんと「仲間」としての距離感を掴まないと。それができないままではきっと私はおかしくなる。そう思っていた。