続いてる夢

□彼女のコーヒー(合格・完結)
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「あ。」
カップにコーヒーを注いでから気が付いた。思わず目の前の湯気の立ち上るカップ2つを睨む。

「サッチー。」

「あ?…またか?」

「いらないならいいよ。」

「いや、まー、くれるんならもらうけどな。」
ついいつもの習慣で淹れてしまったコーヒーを二つ持って、一つをサッチの前に置く。

「なー、これってさぁ…。」

「ん?」
ついでに持ってきたクッキーを摘まむと、サッチがニヤッと笑う。

「惚気?」

「…。違ぇよ、バーカ。」

「バカって、ひでぇなっ!間違えて淹れたコーヒー飲んでやってんのにっ!しかも、マルコに代わってお茶の相手してやってんのにっ!」

「代わりになりませーん。」

「うわっ!ひでぇ!」

「マルコはサッチの代わりになるのにね。」
ふとこの前の島での食べ歩きを思い出す。いや、予算の話までできたから、サッチ以上だ。

「あああ?なるかっ!あいつにオレの味は出せねぇっ!」

「そうかな?教えたらきっと料理も上手にこなしそうじゃない?」

「…おまえ、冷静に答えるなよ。」

「あれで料理だけはすっごい下手、ってのも面白いけど。」
っていうか、可愛いかも。絶対言わないけど(特にサッチの前では)。

「まだ帰ってこねぇの?」

「んー?わかんないよ。一週間くらいって言ってたけど。」
そう返事をすると、向かいから視線を感じて顔を上げた。

「何?」

「いや…。」
サッチの片眉があがる。

「最初はうざがってたくせに、結局いいように丸め込まれてるじゃねぇの、って思ってね。」

「…。」
否定できん。

「でも。」

「ん?」
サッチは頬杖をつくと、ずいっと乗り出してきた。

「おまえら、本当に色っぽい雰囲気が全然ねぇんだよなぁ。」
そりゃそうだよ。そういう関係ではないもん(まだ)。

「どうなのよ?二人っきりのときは。」

「…あんたに話すわけないでしょ。っていうか、船の上で二人っきりになんてなれないし。」

「えー?夜とかマルコの部屋に押し掛けたりしねぇの?」

「しねぇよ。」

「えぇー。…って、まさか、おまえら…。まだなの?」

「何が?」

「何がって、決まってんだろ?男女の関係じゃねぇの?」

「ノーコメント。」

「おいおい。ちゃんと上司に近況報告しろよ…いってぇっ!」
サッチの頭に思いっきり落とした拳に、サッチが頭を抱えた。

「パワハラな上にセクハラだ。」
私は残ったコーヒーを飲み干すと、席を立った。後ろでサッチが「オレにパワーはねぇっ!」って言ってた気がしたけど。
次の仕込みまでは暇だった。いつもならまだまだマルコとのんびりコーヒーを飲んでいるのに。しかたなく自分の部屋のベッドでゴロゴロしていると、ふとさっきのサッチのセリフを思い出した。
色っぽい雰囲気がないのは当たり前だ。だってそういう関係ではないんだから。それにマルコは手を出さないって約束してるし。だから二人っきりでも手を繋いでもいない。時々頭を撫でられたりするけど、それはマルコに告白される前からもあったことだ。

「…我慢してくれてるのかな…?」
全然そんな雰囲気はないけど、相手はいい大人だ。その辺りはスマートに振る舞うだろう。マルコだし。サッチみたいなチャラ男とは違う。
それとも…本当にそんな気にならないとか?

「…。」
自分自身に色気が全くない自覚があるがゆえに不安になる。
っていうか、そもそもこの「お試し」はマルコにだって言えることなんじゃないか?マルコに告白されたから、勝手に私がすべての主導権を握っていると思い込んでいたけど、マルコだって今の状況を試しているのかもしれない。私がO.K.の返事を出しても、マルコから「悪ぃ、やっぱねぇよい。」なんて返事を返されないとは限らない。少なくとも一緒にいる状況を楽しんでくれてはいるようだが、「おまえのことは妹以上には思えねぇよい。」って謝られてもおかしくない。

「…マルコに限って…とは思うけど…。」
そもそも私に告白する段階で、そんな曖昧な気持ちのままでそんなことをするとは思えない。そんな適当なことをする人ではない。ちゃんと考えて、それでも好きだと思ってくれたからわざわざ「お試し」期間まで設けて私を堕とそうとしてくれているのだと思っているのだが。
でも、一方で人の気持ちに絶対がないのも事実だ。「やっぱねぇよい」が絶対にないとは限らない。
なんだかどんどん悪い方向に考えそうになって、私はベッドの上に体を起こした。もしかして、返事を急かさないのは、私にOKを出されると困るからじゃないか?とか、実は今回の偵察もしばらく私と離れたいから親父に頼んで無理やり作ってもらった時間じゃないか、とか。

「あー!!やめやめっ!」
頭をブンブン振って、かなり広がってしまったマイナス妄想を無理やり消すと、私は立ち上がった。
マルコに限ってそんなひどいことをするわけがない。それでも、もし、「やっぱねぇよい」がマルコの答えだったとしても、それはそれでちゃんと受け入れなくてはいけない。今ここで悩んだってしょうがない。

「はぁ…。」
大きなため息をつくと、窓の外を見た。どこまでも続く青い空にはカモメどころか雲一つない。ましてや不死鳥なんて。

「早く帰ってこないかな…。」
マルコの気配のないモビーは落ち着かない。この時点で、マルコが飛び立ってからまだ四日しかたっていなかった。
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