続いてる夢

□彼女のコーヒー(試してみたら?)
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基本的にまじめだってのは、こういうところにも出るんだろう。
「お試し」を提案した翌日から、オレがいつも通りに少し遅めに食堂に行けば、特に何も言わずとも、名無しさんがトレイ二つを持って出てきてくれた。

「お疲れさん。」
そう声をかけると、名無しさんは少し笑ってオレの前に座った。

「あの後は遅かったのかい?」
宴会の後片付けは大変だろうと思ってそう言うと、

「んー。みんな疲れてたのか意外と早くお開きになったからそんなことないよ。」
という返事が返ってきた。

「もっと大変な敵襲とかの後に日を改めてやる宴会とかの方が質悪いもん。」

「ハハっ。なるほどねぃ。」
色気もなんもねぇ会話だと言われればそうかもしれねぇが、そもそもこいつとのこういう会話が、元から好きだったことに今さらながらに気が付く。

「そう言えば、エースは肉抜きになってねぇみたいだな。」
そう言うと名無しさんの顔がパッと明るくなった。

「そう!あの日の晩御飯、お皿舐めました?ってくらい、みーんなきれいで!」

「へぇ。」

「エースも偉そうに『これで文句ねぇだろう!』って。」

「全く、エースの奴、どんな脅し方をしたんだよい。」
クスクスと笑う名無しさんにオレも顔が緩む。

「ああ。そうだ。最近上陸したばっかだが、また近いうちに次の島に着くよい。」

「え?もう?」

「ああ。ただ、前ほど長く停泊はしねぇ。なんか買い出しとかあるか?」

「うーん。…その次の上陸はいつ?」

「ちょっとわかんねぇな。次はなかなか上陸できねぇかもしれねぇ。…って言うか、サッチから聞いてねぇのか?もう隊長陣には話してあるよい。」

「え?何も聞いてないよっ!ちっ。あのヤロー…。」
全く、サッチにゃ厳しいよい。ギロっと厨房を睨んだ顔を見て思い出した。

「ああ、そうだ。そのうち稽古つけてやるよい。」

「え?マルコが?」

「ああ。おまえはいい覇気使いになりそうだ。」
ぽかんとする名無しさんに「ごちそうさん」と告げると、オレは仕事に戻った。



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「覇気使い?私が?」
それこそからかってるんじゃないか、とも思ったが、時々『おまえ、今、覇気使っただろ』とかって他の人にも笑いながら言われるし、あのマルコが言うんだから、と考え直す。

「…そしたらエースも殴れるじゃん。」
ふとそんな物騒なことを考えながら厨房に戻ると、

「おいおい。彼氏と飯食った後に何そんな難しい顔してんのよ?」
ってサッチに言われた。
一瞬「彼氏じゃねーっ!」って言おうとして、ふと、お試しってことは一応「彼氏」扱いなのかと思って言うのをやめる。

「うるさいよ。」

「お?なんだ、おまえら本当につきあうことになったのか?」
このおっさんに「お試しだ」なんて面倒な説明をしたくない。きっとこいつにはマルコの私への気遣いなんて理解できないだろうから。話をそらせたくて、私は今さっきマルコに言われたことをサッチに告げた。

「マルコ、私に稽古つけてくれるんだって。」

「へ?」

「覇気使いになれるって。」

「…。あー。」
なんだよ、その顔。サッチも私が覇気使えそうって気が付いてたのかよ。

「マルコさん、気が付いちゃったのね。いや、オレも迷ってたんだよねー。でも、これ以上おまえが怖くなるのもいいのか悪いのか…。」
今さら「怖い」に突っ込む気はなかったから、そこはスルー。そのまま皿洗いをしようとしたら、

「何だよ。おまえらそんな色気のない話してたのか?」
ってあきれ顔でサッチが言った。

「は?昼間から船の食堂で色気のある話してる方がおかしいだろ。誰もがみんなてめぇみてぇに頭の中までピンク色してると思うなよ。」

「…相変わらず辛辣だな。」
サッチぶつぶつと「オレ、隊長だよ?」とか「これでも結構モテるんだぜ?」なんて言ってたが無視だ、無視。
そこで思い出した。そうだ、こいつ、隊長だ。

「あ!サッチ!次の島に上陸する話、何でこっちに降りてきてねぇんだよっ!」

「え?あ!忘れてた!って、おまえら、本当にそんな話しかしてねぇのか?もうちょっと、こう、男女のだなぁ…。」

「うるせぇ!おまえがそうやってちゃんと話を下ろしてこねぇからこっちからマルコへの返事も遅くなんだろーがっ!」

「え?何?名無しさんちゃんったら、自分の彼氏のために怒ってんの?」

「はぁ?彼氏どうこうの前に、人としての問題だろーがっ!仕事できねぇ上司はいらねぇんだよっ!」

「いらないなんて、ひどいっ!」

「できねぇってところを否定しろっ!」

「サッチさん、ひどくないっす。この前も大急ぎで買い出しリスト作るから、抜け漏れがあって…。」

「そうそう。結局オレらが名無しさんに早く確認しろってせっつかれるし。」

「…。え?何?みんなオレを守ってくれないの?」

「自業自得でしょ。出直しやがれ。」
その後しばらく厨房の隅っこでサッチがいじけてたような気がしたけど、無視。
それよりも、さっさと買い出しの確認をしないと、と、急いでほかの隊員に声をかけた。
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