続いてる夢

□彼女のコーヒー(マルコの気持ち)
1ページ/4ページ

「うるせぇ!ガキじゃあるまいし、何ピーマン残してんだよっ!」
今日は海も穏やかでいい日だよい、なんて思いながら昼飯を食ってると食堂の端の方から威勢のいい声が聞こえた。
いつものことだとオレは気にも留めずに食事を続けるが、横でそのピーマンと牛肉炒めに顔を突っ込んで寝ていたエースがむくっと起きた。

「…。怒られてんの、オレじゃねぇよな。」

「よい。おまえは食いもんに顔突っ込んでも残さねぇことは名無しさんもわかってるからな。」
そう言って、オレも最後のピーマンを口に入れる。美味ぇのに残す奴が悪ぃ。

「食いもんは大事にしやがれっ!ましてや海の上で残すなんてぜってぇに許さねぇからなっ!」
至極ごもっともな言い分だ。
そう思いながらコップの水に口をつけたところで

「うちのお嬢さんが騒がしくて申し訳ねぇな。」
なんて思ってもいないことを口に出しながらサッチが向かいに座った。

「お嬢さん、ね。」
ヘラヘラとエースが笑う。

「どっかの隊長がいい教育してるからな。ちょっと前までは全く同じセリフをもっと野太い声で聞いてたよい。完璧な引継ぎどころか毒舌ぶりに磨きがかかってるじゃねぇかい。」

「ははは…。」
サッチが苦笑いしながら「声」の聞こえるほうをちらっと見る。

「本当は『もー、好き嫌いなんてしちゃイヤ』っていなしてくれるのを期待してたんだけどなぁ…。」

「あり得ねぇだろ、そりゃ!ある意味怖くて二度と誰も何も残さねーよっ!」
そんな名無しさんを想像したのか、エースが腹を抱えて笑う。

「こんな男所帯だ。あんぐらいやんねぇと誰も言うこと聞かねぇよい。に、しても。」
オレはちらっとエースを見ると、まだ目にうっすら涙を浮かべたエースが「?」という顔をする。

「あの怒鳴られてんのはおまえんとこの隊員じゃねぇのかい?」

「え?」
エースの顔が引きつる。と、同時にカツカツとこれまた勢いのいい足音が響いてきた。

「エース!てめぇ、どういう隊員の躾してんだよっ!」

「げっ!」

「昼はピーマン、今朝は人参残した奴もいたぞっ!付け合わせのフルーツはいらねぇとか、てめぇんとこの隊員は海を舐めてんのかっ!」

「はいはい。名無しさんちゃん、隊長に「てめぇ」っていうのはやめようねー。」
サッチが名無しさんを落ち着かせようと肩をポンポンと叩く。

「サッチは黙ってろ!んでもって、気持ちわりぃからちゃんとか付けんじゃねぇ!!」

「ひぃぃぃ!」
おい、サッチ、おまえは上司じゃねぇのかい。
仁王立ちしてエースを見下ろす名無しさんを見ながら、「こいつ、もしかしたら覇気が使えるかもしれねぇよい」なんて思っちまう。こんどサッチに試してみろと提案してみようかねぃ、なんて思っていると、

「いいか。今晩おまえんとこの隊員が何か残してみろ。てめぇの飯から肉全部抜くからな。」
とそれこそ覇気をまとってそうな声で名無しさんが言い放った。

「ええっ!?な、何でオレなんだよ!しかも、肉!」

「当たり前だろっ!隊員のケツ拭くのは隊長の仕事だっ!」

「名無しさんちゃん、ケツだなんて、はしたない!」

「うるせぇ!そういうはしたない隊員になったのはおまえのせいだっ!」

「え?そこぉ?」

「いいな、エース!わかったらさっさと食って隊長命令を出しやがれっ!」
ビシッとエースの鼻の先に指を突き刺すと、名無しさんはくるりと向きを変えてまたカツカツと厨房に戻っていった。

「おい!サッチ、どうにかしろよっ!なんでオレの肉!」

「んー。あーなったら僕にも止められませーん。」

「何が僕だっ!ふざけんなっ!」

「サッチに頼むより、自分の隊員に完食命令出す方が早いよい。」
コップに残った水を飲み干してからそう言うと、

「ちっくしょー!」
と言ってエースは食堂から駆け出して行った。
そんなエースの後ろ姿を見送りながら、サッチは小さくため息をつく。

「全く。不器用な奴だよ。」

「…ん?」

「今日の昼飯。ピーマン嫌いの奴でも食べやすいようにって、かなり味付けに工夫してたんだよ。多分、さっき怒られてたやつは明らかに一つも試してみてねぇってわかる残し方したんじゃねぇかな。ああやって文句言いながらも、食ってみたのに受け入れてもらえなかったことに関しては真摯に受け止めるからよ。」

「…なるほどねぃ。」

「どうしても肉食って酒飲んでばっかりの奴らに何とかして野菜と果物を食わせようと奮闘してるのは傍から見てると可愛いもんだぜ。」
サッチがニヤッと笑う。

「ああ。少なくとも隊長陣は全員わかってるよい。それで行くと、新人に『食事は完食しろ』って教育するのはオレらの仕事だな。名無しさんのためにも。」

「ってことは、やっぱりエース隊長の怠慢が悪ぃんだな。さて、オレも片付け手伝ってくるか。」
そう言ってサッチはオレとエースの空いた食器類を持つと、厨房に去っていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ