短い夢@

□内緒だよ
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「ほら。さっさと起きて服着ろよい。」

「…むぅ…。」
時計を見ればまだ14時。ああ。お昼寝にちょうどいいのに、なんて思いながら、無理やり体を起こす。
シャツを羽織るマルコの後ろで、床に落ちた下着を拾うと、まだだるい体を引きずるようにしてベッドに座わって服を着る。

「ねぇ。」

「ん?」

「3番隊にさ、半年くらい前に入った奴、いるでしょ?」

「…。ノースの奴か?」

「そう。」

「そいつがどうした?」

「告られた。」

「…。へぇ。」
何だその「興味ありません」みたいな反応は。ちょっとムカつく。黙っていると、マルコが後ろを向いた。

「で?おまえはなんて返事したんだい?」

「『好きな人がいるからごめんなさい。』」

「そうかい。」
マルコはニヤッと笑うと、乱れた髪の毛を撫でつけて(それでもやっぱりもぎたてパイナップルのように元気よく跳ねてるんだけど)机に座った。

「ほら。これ、アトモスんところに持ってけよい。」
マルコはぺらっと紙を私に差し出す。それはつまり「さっさと出て行けよい」ってこと。
私は無言でその紙を受け取ると、アトモスを探しに甲板に出た。



私がマルコに告白したのは3か月くらい前。
珍しくポーカーフェイスが崩れて、照れてるんだか驚いてるんだかわからないような顔をしたマルコは

「…つきあってもかまわねぇが…できれば周りには知られたくねぇよい。」
と言った。何とも微妙な返事に一瞬戸惑ったが、

「自分んとこの隊員に手ぇ出しちまったってのも、示しがつかねぇからな。」
と言われて、了承した。
だから、船の上では基本的に「今までどおり」。隊長と隊員の関係だ。夜にマルコの部屋を出入りしているとバレるからと、「隊長のお手伝い」名目で昼間マルコの部屋で二人っきりになれた時だけ、恋人らしい関係になれる。と、言っても、限られた時間しかないから、基本的にはベッドの中が多いけど。
島に上陸したときは、私が泊まる宿をマルコに伝えておいて、そこにマルコが来る感じ。でも、大所帯の白髭海賊団だ。どこで誰に会うかもわからないから、デートなんてできない。
最初はそれでも、マルコの彼女になれるだけで十分だと思った。何かと用事を作っては、マルコの部屋に行くのが楽しみだった。でも、そのうちその窮屈な関係に疲れてきた。しかも、私があまりに頻繁にマルコの部屋に来るもんだから、マルコは「バレるだろい」と言って、回数を減らすように言ってきた。お酒が入ると、隠さなきゃって緊張が解けてついつい甘えちゃったりしたもんだから、宴会があったりしてもあまりマルコには近寄らせてもらえなかった。
そして、今回の件だ。当然表向き私は「フリー」だから、3番隊の奴に告白された。私でもそんなことがあるくらいだ。実はマルコも誰かに告白されたりしてるんじゃないか、と心配になることもある。それどころか、実はこうやって隠れて付き合っているのは私だけじゃなくて、ほかに何人もいるんじゃないか?と疑ったこともあった。でも、回数は減っても結構自由にマルコの部屋に出入りしてるし、ほかに女の影は見えないから、とりあえずマルコを信じることにした。
でも、やっぱり、できれば「私はマルコの彼女です!」と胸を張って言いたいという思いはどんどん募っていった。




一番隊の仲間と食堂でポーカーをして遊んだ後、女部屋に戻ろうとしていると、大部屋でワイワイと騒ぐ声がした。聞きなれた隊長たちの声に、そう言えば今日は隊長たちで飲む、とマルコが言っていたことを思い出した。つきあう前は、それこそそこに乱入して一緒に飲んだりしてたけど、今はそれもできない。マルコと一緒にいたいのもあるが、隊長たちと飲むのも楽しいからそこに参加できないことに不満を感じつつ、部屋の前を通り過ぎようとすると、ひと際大きな笑い声が聞こえた。どうも気になって、私は丸窓から中を覗きこんだ。
男ばかりでバカ騒ぎしてるんだろう、と思っていたその光景はちょっと思っていたのとは違った。
ナースたちが数名、そこに混ざっていた。いや、私だって昔は乱入してたくらいだ。ナースがいることよくあることだ。問題はそこじゃない。
目に入ったのは、マルコの膝の上に座った新入りナース。その光景に驚いて凝視していると、それだけでは終わらなかった。そのナースはマルコの首に腕を回すと、そのままマルコにキスをしたのだ。
私はゆっくりと丸窓から後ずさりした。隊長たちの冷やかす声がやけに遠くから聞こえるのを感じながら、私は女部屋に駆け込んですぐにベッドにもぐりこんだ。

翌朝、ほとんど食べる気にならなかった朝食を終えて甲板に出ると、手すりにもたれて海を眺めた。マルコがあのナースとつきあっているのか、或いは、ナースと飲んでいる時は彼女に限らずあんな感じなのか、そんなことはどうでもよかった。はっきりしたのは「だからマルコは私とつきあっていることを公にしたくないんだ」と言うこと。


「…バカみたい。」
そういうことだったんだ。納得だ。彼女がいる、ってことになったらあんなことはできない。しかも、相手が私だとわかれば、周りの兄弟もナース達も絶対にあんなことはさせないし、しない。じゃあ、何で私とつきあったのか?って考えると、答えは一つ。つまり、私はいわゆる「都合のいい女」だったのだ。
考えてみれば、いつも私がマルコの部屋におしかけていた。私が泊まる宿をマルコに伝えていた。マルコから「オレの部屋に来い」とか「宿はどこを取るんだい?」なんて聞いてきたことはなかった。ほっておいても勝手にやってきて、やらせてくれる便利な女。そんな感じなんだろう。

「はぁ…。」
どこまでも続く青い海を眺めながら涙がでそうになるのを歯を食いしばってこらえる。
最初はマルコを問い詰めようと思った。でも、もう、なんだかどうでもよくなってきた。私が一方的に押し掛けていたんだ。それをやめれば自然消滅するかもしれない。マルコと話をして惨めな思いをするくらいならその方がいい。もう、終わりにしよう。ぎゅっと目をつぶって涙を耐えると、私はビスタにでも手合わせしてもらおうと、船内に向かった。
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