短い夢@

□湯たんぽ女
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「あーっ!眠れないっ!しかも、寒いっ!」
思った通り、心地よい春島の気候は近づいてきた冬島のせいで一転した。しかも、普通の冬島よりかなり寒いらしい。大慌てで冬服やら毛布やらを引っ張り出したけど、寒くて全然眠れない。

「…寒さだけじゃないけどね、きっと…。」
普段しない昼寝なんかをしたせいもあるけど。なんでマルコがあんなことをしたのか、っていうか、やっぱりマルコは寝ぼけていたのだろうか?なんて悶々と考えていたら、すっかり頭が冴えてしまったのだ。

「人のことを『湯たんぽ』って…。女扱いどうこう以前に、人ですらないってこと?」
ぶつぶつ文句を言いながら、何か暖かいものでも飲もうと食堂に向かうと、その食堂で寝付けない原因を作った張本人に遭遇した。

「お?何やってんだい?」

「…寒いのと、変な時間に昼寝したせいで眠れないんですっ。」

「オレのせいにするなよい。」

「どう考えたってあんたのせいでしょうがっ!っていうか、マルコも眠れないんでしょ。」

「違ぇよい。おまえと違ってやらきゃならねぇことがいろいろあんだよい。」

「それなのに昼寝しちゃったから終わらないんじゃないのー?」
そう言うと、マルコは珍しくむっとした顔をして黙った。図星だな。
私は厨房でホットミルクを作ると、それをマグカップに入れて部屋に戻ることにした。すでに私が食堂に来た時には手にマグカップを持っていたマルコが、なぜが厨房のところで立っている。

「眠れねぇなら手伝え。」

「…やだ。」

「文字を見てりゃ眠くなるよい。」

「え?ちょ、ちょっとこぼれるよっ!」
マルコは私の頭を真上からガシッと掴むと、そのままマルコの部屋に向かって歩いていく。もう逆らうのも面倒になって私は渋々ついていった。

「ほら。こっちの数字とこれがあってるか確認しろ。」

「文字じゃなくて数字じゃん。」

「ますます眠れそうだろい。」

(寝ながらやって間違えたら怒るくせに。)と、思いながらも。完全に頭が冴えてしまっていたから私は手伝いをしてやることにした。
しばらく黙って確認作業をしていたが、ふと、いい匂いがするような気がしてあたりを見回す。

「…そう言えば、マルコは何飲んでるの?」

「あ?飲んでみるか?」
そう言われて私は立ち上がると、マルコの机の上に置いてあるマグカップを手に取った。

(紅茶?)
と思いながら口元に持っていくと、そこから匂うのはアルコール。一口飲むと、

「ブランデーだよい。」
とマルコが顔もあげず、手を動かしたまま答えた。

「なるほど。…美味しい。」
もう一口もらう。結構きつめだが、冷えた体にはちょうどいい。マルコがちらっと私を見ると

「気に入ったかい?」
と聞いた。

「うん。あったまるね。」
と答えると、マルコはふっと微笑む。一瞬アルコールとは違う熱が顔に集まった気がしたが、私は気を取り直すと黙って作業をしていた場所に戻った。
しばらく、アルコールで温まった体で調子よく確認作業を続けていたが、それは長くは続かなかった。

「…寒い。」

「鍛え方が足りねぇよい。」

「寒さは鍛えてなんとかなるもんじゃないでしょ。」
そう文句を言ったが、マルコは無視。っていうか、マルコはそんなに厚着をしているようには見えない。(とは言え、さすがにいつもの素肌にシャツ、というわけではない)一方の私はさっきから足の先が冷たくて仕方ない。つま先をこすり合わせたり、なんとか誤魔化そうとしていたが、もう駄目だった。
私は、書類を持ったまま立ち上がると、マルコのベッドの上に座り込んで毛布をかぶった。
そんな私をマルコはチラッと確認すると、黙って作業を続ける。ベッドにもぐりこんだことに文句はないのだということを確認すると、私はそのままベッドの上で確認作業を続けた。
だが、今思えばある意味、ブランデーはドーピングに近かった。冷えた体を一気に温めて、一度は業務効率があがったものの。今度はそのアルコールのせいで一気に眠気が襲ってきた。やばいな…と思いながら、数字とにらめっこをしていたが、毛布にくるまって手にしていた書類の真ん中くらいまで作業が進んだところから、もう記憶はなかった。
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