短い夢@

□エースの災難
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「一週間くら前なんだけどよ。」

「あ?」
サッチの横に座って酒を飲んでいたエースが、深刻そうな顔をして話し出した。

「マルコに早く出せって言われてた始末書を書き終わったから、マルコを見つけて声をかけたんだけどな…。


〜〜〜

以下、エースの回想

「おい!マルコ!昨日言ってたやつ、書き終わったぞ!」
エースが大声で前を歩くマルコの背中に声をかけると、マルコは振り向いて

「あー。やっとかい。」
と答えた。

「ほら。」
マルコに追いついてエースが書類を渡そうとすると、

「待てよい。おまえの書類はいつも間違いだらけだから、すぐに確認しねぇと面倒なんだよい。」
と言って受け取ろうとしない。

「…なんだよ。せっかく書いたのに。」

「親父に呼ばれてて船長室に行かなきゃなんねぇ。ちょっと待っててくれよい。」

「んー。わかった。じゃ、おまえの部屋に行ってるぞ。」

「ああ。すまん。すぐに戻る。」
足早にその場を去るマルコを見送ると、エースは向きを変えてマルコの部屋に向かった。

マルコの部屋のドアのカギはかかっていなかった。エースは中に入ると、ベッドの上どさりと座った。

「相変わらず、わけのわかんねぇ本ばっかりだな。」
そんなことをぼやきながら本棚を眺める。海図っぽいものとかはまだわかるが、法律書とか医学書みたいなものとか、タイトルを見ただけでエースには頭痛を引き起こしそうな本が並ぶ。

「あいつ、本当に海賊なのかよ。」
ふっと独り言をいながらため息を漏らしたところで、エースは物音に気が付いた。

「…あれ?シャワーか?」
シャワー室から聞こえる水の音。誰かがいるのか?それともマルコが水を止め忘れたのだろうか?と一瞬思うが、

(いやいや。マルコに限ってそんなことしねぇだろ…。っていうか、人の気配がする。一体誰だ?)
と考え直す。
一体誰がマルコの部屋でシャワーを浴びているんだろう?そう思っていろいろ考えてみるが、普通は大浴場を使う。しかも、朝っぱらからシャワーを浴びるようなきれい好きはあまりこの船にはいない。毎朝髪の毛をセットするサッチくらいか?なんて思いながら、シャワー室のドアをぼんやり眺めていると、シャワーの音が止まった。ガサガサと中で人が動く音に続いて、シャワー室のドアが開いた。

「っ!!!!」
エースはあまりに驚いて声が出なかった。

「な、な、な…。」

「あれ?エース?どうしたの?」
バスタオルを体に巻いただけの名無しさんが頭をタオルで拭きながらシャワー室から出てきたのだ。

「え?あ、あー、そ、その。マルコに用があって…。」

「あっそ。マルコは親父に呼ばれてたよ。」

「あ、ああ。だから、ここで待ってるんだけど…。」

「そう。」
名無しさんはそう言うと、ベッドの上に置いてあった服をもってシャワー室に戻ってしまった。

(っていうか、ここに服があったのかよっ!)
実はさっきちらっと見えた黒い物体がどうやら名無しさんのブラジャーだったらしいということに気が付いて、エースは顔が熱くなるのを感じた。

(く、黒なのか…。っていうか、オレ、ここにいていいのか?)
恐らく服をもってシャワー室にもどったから、きっと次に名無しさんが出てくるときには服を着ていると思われた。もう今となってはここを出る意味もないのではないかと思いながらも、エースはどうしたらいいかわからなかった。

(っていうか、何で名無しさんがマルコの部屋でシャワー浴びてんだよっ!)
普通に考えれば、それはつまりそういうことなんだが。だが、エースはマルコと名無しさんがつきあってるなんて聞いたことがなかったし、それっぽい雰囲気もなければ、むしろいつも喧嘩ばっかりしているという認識だった。でも、やっぱりわざわざマルコの部屋でシャワーを浴びるなんておかしい。しかも、朝なのに。

(…昨日の夜からここにいたってことか?)
頭に浮かんだ恐ろしい妄想にエースが思いっきり首を振ったところで、シャワー室のドアが再び開いた。

「ふー。さっぱりしたぁ。」
服を着た名無しさんが髪の毛を拭きながらシャワー室から出てくる。エースの存在など微塵も気にしていない様子だ。
一方のエースはそんな名無しさんを見て、思わず唾を飲み込んだ。
エースがこの白髭海賊団の一員になった時には、すでに名無しさんはこの船に乗っていた。見た目はいい女だが、本当に女なのだろうかと思うくらいに強い上に、何かをやらかすと大抵マルコか名無しさんに殴られていたから、エースにとっては名無しさんはもはや女ではなかった。百歩譲って「生物学的に雌である」という目で見たときに、かろうじて「怖ぇ母ちゃん」というイメージを持つくらいで、名無しさんを「異性」として見たことはなかったのだ。
だが、もし、昨日の夜からここにいて本当にマルコと「そういう関係」ならこのベッドの上で起きていただろうこととか、バスタオル一枚の姿とか、黒いブラジャーとか、風呂上がりの火照った肌に、エースは名無しさんを初めて「女」として見てしまっていた。

(すっげぇ、色っぽくねぇか?)
そんなことを思った瞬間、名無しさんと目があった。

「何?」
そう言われて、エースは初めて自分が名無しさんを凝視していたことに気が付いた。とにかく何かを言わなくては、と慌てて言ったそのセリフは

「こ、ここで何してんの?」
という間抜けなものだった。
名無しさんは一瞬首を傾げると、ニヤッと笑った。

「シャワーを借りてたの。」
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