長い夢 「不死鳥の女」
□ようこそ白ひげ海賊団へ
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翌朝。
(…疲れてるはずなのに、いろいろ緊張してるのか、あんまり眠れなかったなぁ…。)
ふあぁぁぁと大きなあくびをしながら名無しさんは食堂に向かっていた。以前遊びに来た時にモビーに泊まったことはあったから、朝ご飯の流れは理解しているつもりだった。
「よぉ!おはよう、名無しさんちゃん!」
サッチが名無しさんを見かけて声をかける。
「おはよう!サッチ!…って、サッチ隊長って呼んだ方がいいの?」
「あ?気にすんな!サッチでいいぞ、サッチで!に、しても眠れなかったのか?眠そうだな?」
「あー…。いや、女部屋の洗礼を…。」
名無しさんがそう言いながらトレイを置いてテーブルにつくと、向かいにサッチも座った。
「え?いじめられたのか?」
「え!?いやいやいや!違うよっ!そうじゃなくて、ほら、ガールズトークってやつ?」
「ガールズトーク?」
「そ。マルコのせいで、飛んで火にいる夏の虫状態。」
「…あー。なるほどな。」
すべてを理解したように、サッチは苦笑い。
「朝からオレの話で盛り上がってるなんて、嬉しいねぃ。」
そんな声が聞こえたかと思うと、名無しさんの横にマルコが座った。ぴったりとくっつくような距離に、思わず名無しさんはマルコから体をひくと、思いっきりマルコを睨んだ。
「あんたのせいでいろいろ大変だったって話てたんですっ!」
「へぇ。」
マルコはそう言って眉を上げると、目の前の朝食を食べだした。名無しさんも視線をトレイに移すと、卵焼きにフォークを刺した。
「マルコって、男が好きなの?」
「…おまえ、男だったのかい?」
「んなわけないでしょ。」
「だよな。昨日担いだ感じだとどう考えたって女だい。」
そこで名無しさんが思いっきり殺意の籠った目でマルコを睨む。当のマルコは全く動じずに目の前の食事を食べている。
「女に全く興味がなかったらしいから。」
「たまたまだろい。」
「もしかして、童貞?」
「違ぇよい。なんなら食った後確認してもらってもかまわねぇよい。」
「いや、結構。口頭での確認だけで十分です。」
「遠慮することはねぇよい。」
「遠慮もなにも。やってないかどうかなんて、確認するすべがないでしょ。知識だけでそうじゃないふりもできるし。」
「なんだい。おまえはオレの初めてがほしかったのかい?」
「いや、初めても、10回目も、最後もいらない。」
「残念だよい。さすがに初めても10回目ももうねぇよい。でも、最後は間違いなくおまえにやるから安心しろい。」
「いらない。」
名無しさんは吐き捨てるようにそう言うと、目の前のソーセージを思いっきりフォークで突き刺した。
「…おまえら、面白れぇな。」
名無しさんの前で頬杖をついて二人の会話を見ていたサッチは、感心とも呆れとも言えない微妙な顔をして言った。
「ふー。ごちそうさん。」
マルコは完食すると、フォークを置いた。
「この後船を案内するよい。」
「隊長じきじきにしていただかなくて結構ですー。」
「相手がおまえじゃなくてもオレの隊員にはオレが説明してんだよい。」
「じゃ、特別扱いして他の人にしてください。」
「うるせぇ。」
マルコはピシッと名無しさんのおでこにデコピンをした。
「いだっ!」
「ほら、さっさと食っていくよい。」
「何が優しい、だよ。…全然優しくないじゃん。」
「あ?なんか言ったかよい?」
「なんでもありませーん。」
そう言うと、名無しさんは空になったトレイを持って立ち上がった。マルコもそれに続く。トレイを置いて二人が食堂から出て行くのを目で追いながら、サッチはつぶやいた。
「なかなかいいコンビじゃねぇの。」