短い夢@

□いろんな隊長
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マルコ隊長がそんなふうに気軽に声をかけてくれたものだから、他の一番隊の女子と一緒に甲板に出て飲んでいたのだが、よくよく聞けば、ナース達からうちの隊と飲みたいという話があったらしい。

「一応、新しい子も入ったし、親睦を深めるためってことらしいけど、どうやらそれだけじゃないらしんだよね。」
数少ない女隊員の一人がそんなことを言うから、

「え?どういうこと?」
と聞けば、

「ほら、最近こっちにちょこちょこ顔を出すあの新人ナースいるでしょ?あの子がマルコ隊長狙いらしくてさ。マルコ隊長と話ができるようにって、先輩ナースたちが場を設けたってわけ。」

「なんかね、この前の敵船の襲撃の時に危ないところをマルコ隊長に助けられたらしくて。それからぞっこんらしいよ。」
と口々に説明してくれた。

「なるほどね…。確かに、最近よく見るよね。」
そう言いながら私の視線の先にはまさにその二人。マルコ隊長の横に、顔を赤らめた例の新人ナースが座って、何やら話をしている。

(…可愛い子だもんな。これを機に、親睦が深まっちゃうんですかね…。)
思わずため息が漏れたところで、

「おぅ。1番隊の可愛い妹たちに、差し入れだぜ〜。」
とサッチ隊長がフルーツやらチーズ、チョコレートの乗った、ちょっとこじゃれた盛り合わせを持って登場した。

「美味しそうっ!」

「素敵っ!」

「だろ?」
サッチ隊長はいつも私たちを大事な妹だと言って可愛がってくれる。お皿に乗ってるチョコレートは市販品ではなくて、サッチ隊長お手製だ、なんて言うから、皆で大絶賛していると、

「おいおい。そうやってサッチを甘やかすんじゃねぇよい。また調子に乗るだろうが。」
と言う声がして振り向いた瞬間、私の隣にマルコ隊長がどかっと座った。突然の登場に驚いたものの、ふと気になって、さっきまでマルコ隊長が座ってた場所を見ると、例のナースが不満気な顔をしてこっちを見ていた。

「ナースたちはいいの?」
そうマルコ隊長に声をかける。

「あ?若ぇもんは若ぇもん同士でやってりゃいいんだよい。」

「それって、何?私たちは年寄りだって言いたいの?」

「お。なかなか鋭いよい。おまえも行間が読めるようになったかい?」

「行間ですらないでしょっ!って言うか、そこは否定しろっ!」
ムカついて文句を言う私の頭を、いつものようにマルコ隊長が上から押さえつけると

「あ。サッチ隊長、また、うちの女どもを餌付けしてるな。」

「ずりぃぞ。おまえらの食ってるもんはいつもうまそうなんだよ。」
と他の仲間も数名集まってきたから、そのままいつもの1番隊+サッチ隊長飲みに突入した。いい意味で私たちを女扱いしない気の合う仲間たちと大騒ぎしていると、その様子を見て笑っていたマルコ隊長が、

「全く、同じ女だとは思えねぇよい。」
と言って、私の頭をいつものようにぐりぐりと鷲掴みにした。私がマルコ隊長の手を振り払うと、マルコ隊長は笑いながら横にいた隊員が注いだ酒を煽ってから仲間たちの会話に加わった。
マルコ隊長の言葉がひっかかったまま、何となく例のナースたちの方を見た。若い隊員たちに囲まれて、口を押えて微笑む例の新人ナースは、女の私が見ても素直にかわいい。

(…ほんと、そうだね。)
自分はマルコ隊長にとって女ではないのだ、という現実を突きつけられた気がして、大きくため息をついた。ワイワイと楽しそうに騒ぐ仲間たちと同じテンションを保てる気がしなくて立ち上がると、

「どうした?」
とマルコ隊長に声をかけられた。

「…。ちょっと、トイレ。」

「そうかい。途中で海に落ちんじゃねぇぞ。」

「ハハハ。そこまで酔ってないよ。」
適当に笑って誤魔化すと、私はそのまま女部屋に戻ってベッドに入ってしまった。


それから、あの新人ナースはやっぱり1番隊の周りをちょろちょろしていた。果たして他の新人ナースはそんなにマルコ隊長に用事があったのだろうか、とも思うのだが、彼女が何かしらの用事でマルコ隊長に声をかけている姿を何度も見かけた。そして、いつ見てもそんな彼女の対応をするマルコ隊長の表情はあまり私には見せないものだった。優しい笑顔で穏やかに話す。乱暴に頭を叩いて、頭が悪いだの、グズグズするなだのと暴言を吐いて、最後に赤くなるほどほっぺたをつねっていくなんてあり得ない。女としての差を見せつけられているような気がして、私は何となくマルコ隊長を避けるようになった。とは言え、私は1番隊の隊員だし、マルコ隊長と接点を全く持たないなんて無理で。しかも、それまで一日に何回も頭を叩かれていたのも、気が付けばマルコ隊長が近くにいて不意打ちで叩かれていたものだから、完全に逃げることはできなかった。


そんな感じで私のモヤモヤが募り続ける中、モビーは島に上陸した。今回1番隊は何の当番もないから、ストレスの溜まっていた私は思いっきり自由時間を満喫しようと思っていた。でも、船を降りようとしたところで、

「おい!名無しさん!」
とマルコ隊長に声をかけられた。

「買い出しに付き合えよい。」

「え?なんで?嫌だよ。」

「嫌だじゃねぇ。隊長命令だ。」
マルコ隊長はそう言って私の頭を鷲掴みにすると、

「ほら、行くよい。」
と有無を言わさず連行していく。

「なんで私?せっかく自由時間なのに…。」
ぶつぶつと文句を言っていると、

「うるせぇよい。いろいろ買うから荷物持ちが必要なんだよい。」
と言われた。

(荷物持ちって…。私より、もっと適任がいるじゃん…。)
内心そんなことを思いながらも、文句を言ったらまたほっぺたをつねられそうだから、黙ったままついて行った。

「最近大人しいじゃねぇか。なんかあったか?」
並んで歩いていると、いきなりマルコ隊長がそんなことを言った。まさか、「マルコ隊長が新人ナースと仲良くしているから落ち込んでるんです」なんて言えるわけもない私は、

「そう?いつもどおりじゃない?」
と適当に返事をすると、

「そうかい…。」
と不満気な声が返ってきたが、珍しくマルコ隊長はそれ以上突っ込んでは来なかった。
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