短い夢@

□策士の恋
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「すまねぇな。あと数日しかいられねぇのに。」
オレがそう言うと、名無しさんは、

「さすがに隊長さんがずっとここにいて、あっちをほったらかしじゃまずいでしょ?」
と言って笑った。そんな聞き分けの良すぎる名無しさんの頬をそっと撫でると、オレは出航直前まで名無しさんと一緒にいられるようにすべく、すべての用事を済ましてしまおうとモビーに向かった。
街に出ると、前回はほとんど見かけなかったあの海賊団の奴らをそこかしこで見かけた。

(オレらより2,3日くらい先に来てたって言ったか?そろそろ出航だから、準備で忙しいのかもしれねぇな。)
そんなことを考えながらモビーに乗り込もうと歩いていると、前方に見たことのある人影が見えた。

(…あいつは…。あの時の…。)
そう。名無しさんの店にいた一番ガタイのいい男だ。そいつはオレを認識すると、顔を引きつらせて後ずさった。

(けっ。情けねぇ奴らだよい。)
その時、オレはそれくらいにしか思っちゃいなかった。さっさとモビーでの用事を済ませて名無しさんのところに戻ろうと、船に駆けあがった。
次の航路について航海士やオヤジと確認を済ませると、オレは武器の補充を確認しに甲板に出た。さて、次は医務室の確認だ、と船内に入ろうとしたところで、

「マルコ隊長っ!」
と声をかけられた。

「なんだい?」

「その…。島の奴らがマルコ隊長を呼んでくれって…。」

「島の奴らが?」
オレは名無しさん以外に島民に知り合いはいねぇ。不思議に思っているのが顔に出たのか、オレに声をかけた奴が、

「そ、その…。パイナップルみたいな頭の隊長さんを呼んでくれって…。」

「てめぇ、オレに喧嘩売ってんのか?」
思わずオレがそう言うと、そいつは慌てて、

「い、いやっ!そのっ!その人に名無しさんって女のことだって言えば、話を聞いてくれるはずだって言われてっ!と、とにかく、なんだかすごく焦ってるんですよっ!」

「名無しさん?」
わけもわからねぇまま、オレはそいつについてモビーを降りると、すぐそこに島の住人らしき男たちが何人か立っていた。

「ああ!あの人だっ!」

「間違いないのか?」

「ああ!あんただろ?名無しさんちゃんのとこに出入りしてるってのは?」
オレの顔を見てそのうちの一人が叫ぶと、島民がオレの元に駆け寄ってきた。

「一体、なんなんだ…。」

「大変なんだっ!あの海賊団の奴らが、名無しさんちゃんに仕返しをしに行ったんだっ!」

「今日はあんたがいないってのを知って、出航前に仕返しをするって!オレ、たまたまあいつらが話してるのを聞いたんだよっ!」

「何だって?」

「あいつら、名無しさんちゃんを攫ってそのまま出航するつもりだっ!船に残した数人以外、ほぼ全員で店に乗り込むらしいっ!いくら名無しさんちゃんでも、あの人数じゃやられちまうっ!」

(え?)
最後の言葉にオレは耳を疑った。

「いくら名無しさんでもって、どういうことだい?」

「あんた、知らないのか?名無しさんちゃんはすごく強いんだよっ!」

「え?」

「あの海賊たちだって、10人くらいならきっと何の問題もねぇ!でも、さすがにあの人数じゃ…。」

「名無しさんちゃんはもともと海賊だったんだよっ!」

「っ!?」
オレは驚いて固まってしまったが、男たちに怒鳴られて我に返った。

「早く助けにいってやってくれっ!」

「名無しさんちゃんが攫われちまうっ!」
オレはすぐに不死鳥に変身すると、名無しさんの店に向かって飛び立った。



名無しさんの店が見えたと同時に、その周りを男たちが取り囲んでいるのが確認できた。次の瞬間、バンっという大きな音が響いて、店のドアと一緒に人が吹き飛ばされて外に放り出された。

「くそっ!一気に突っ込めっ!」
どうやら前回オレが蹴り倒した大男は船長だったらしい。その男が掛け声をかけると、周りにいた男たちが雄たけびを上げた。オレは急降下すると、男たちと、もはやドアのなくなった戸口の間に降り立った。

「っ!て、てめぇっ!」

「全く、相変わらず情けねぇ奴らだよい。たった一人相手に何人集めてんだい。」

「マルコっ!」
背後から聞きなれた声がして振り向けば、店の中で男たちに取り囲まれた名無しさんが完全に意識を失ったように見える男の胸倉をつかんだままオレを見ていた。

「もしかして、手伝いはいらねぇかい?」
オレがそう言うと、名無しさんは一瞬面食らったような顔をしたが、

「さすがにこの人数を一度に相手するのは嫌だわ。」
と言って苦笑いした。

「せ、船長。こいつ、不死鳥マルコですっ!」
大男の近くにいた奴がそう耳打ちをしたが、船長と思しきその大男は

「けっ!この人数で負けるわけがねぇだろっ!野郎ども、二人まとめてやっちまえっ!!」
と声を荒げた。

「マルコ、外はお願い。」
思ったよりすぐ近くに名無しさんの声が聞こえて振り向けば、名無しさんはオレと背中合わせに立っていた。

「了解。」
オレがそう返事をすると、名無しさんは今までに見たこともない好戦的な笑みを浮かべた。



うずくまる船長を蹴り飛ばして、その横で完全にビビって動けなくなっているその手下に

「さっさとそいつを連れて、この島から出てけよい。」
と言うと、海賊たちはわらわらと逃げ出した。店の中からも這うようにして出てきた男たちが置いていかないでくれとうめきながら後を追う。

「ケガはねぇかい?」
そう声をかけると、名無しさんは手をさすりながら、

「素手で殴ったからちょっと痛いけど。ま、大丈夫。」
と答えた。近づいて手を取ると、確かに拳が赤い。

「いつもはグローブをつけるんだけどね。そんな暇なく押しかけてきたから。」
オレは青い炎を灯して名無しさんの手を自分の手で包んだ。

「ったく。一体何発殴ったんだよい。」
そう言ってため息をついたオレの背後で、バタバタと大人数が走ってくる音がした。振り向けば、オレに助けを求めに来た島民たちが駆け寄ってきていた。

「名無しさんちゃん!大丈夫だったか?」

「よかった!隊長さんが助けてくれたんだな!」

「みんな…。」
驚く名無しさんに、オレがここに助けにくるに至った経緯を説明すると、名無しさんは泣きそうな顔をして駆け付けた男たちに礼を言っていた。
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