短い夢@

□策士の恋
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街に出て買い物をしているとサッチが声をかけてきた。

「よぉ、マルコ。何だか久しぶりじゃねぇか。一体どこにいたんだよ。」

「ああ。こいつんとこで世話になってたよい。」

「どうも。名無しさんです。」
オレがそう言うと、横にいた名無しさんがサッチに挨拶をした。一方のサッチは、口を開けて固まっている。

「世話になってたって…。え?マジ?」
サッチは明らかに困惑した様子でオレと名無しさんの顔を交互に見た。

「おまえが女の世話になるなんて、珍しいな…。」

「あら、そうなの?行く先々で女を作ってるのかと思ってたわ。」
クスクスと笑いながら名無しさんがそう言うと、名無しさんを見るサッチの顔が引きつる。

「ひでぇな。オレを何だと思ってんだよい。」
オレがそう文句を言うと、

「そうだぜ。マルコが女と街を歩いてるのなんて、初めて見たよ。」
とサッチが言ったもんだから、

「あら。それは嬉しいわ。」
と名無しさんが笑った。

(…肝の座った女だよい。)

「マルコ、ちょっとお肉屋さんに寄ってくる。」

「おぅ。」
肉屋に入っていく名無しさんの背中を見送ると、サッチが

「おまえ、マジ?え?あの子、船に乗せんのか?」
と心配そうにきいてきた。

「さすがに堅気を海賊船に乗せるわけにはいかねぇよい。」

「…だよな。でも…。」

「その辺はあいつも割り切ってる。できた女だよい。」

「…。」
サッチは無言のままオレの肩をポンと叩いた。と、そこで、1番隊の奴が走ってきた。

「マルコ隊長!やっと見つけた!」

「あ?どうした?」

「いや〜。ちょっと船大工の奴らが相談してぇことがあるって、マルコ隊長を探してたんですよ。」

「そうかい。そりゃ悪かったな。」
隊員にそう返事をしたところで、名無しさんが戻ってきた。だが、オレが隊員と話をしているのを見て、一歩下がって待っている。

「今晩船に戻るので間に合うかい?」

「出航前には話をつけてぇようなことを言ってたんで大丈夫じゃねぇかと…。船大工たちに伝えておきます。」

「頼んだよい。すまねぇな。」
隊員にそう伝えて名無しさんに近づくと、

「今すぐ行かなくていいの?」
と名無しさんが首を傾げた。

「ああ。この荷物を一人で運ぶのは無理だろい。荷物を置いたら船に戻るよい。」

「日持ちする荷物はお店に預かっておいてもらえるから、大丈夫よ?何度も往復するのは大変でしょ?」
名無しさんは心配そうにオレを見たが、オレは名無しさんの手から肉の入った袋を受け取ると、

「大したことねぇよい。」
とだけ伝えた。




「あの海賊団の奴ら、あんまり見かけなかったな。」

「ええ。白ひげ海賊団が怖くて大人しくしてるみたい。あっちの方が先にログがたまるだろうから、このまま出て行ってくれるといいんだけど。」

「確かにな…。」
道中のそんな会話に、改めてこの島はこの手の質の悪い海賊団が来た時にどうしているのだろうと疑問に思った。オレ達海賊にも愛想のいい島民だ。もしかしたらオレ達の傘下に入ることに興味があるのだろうか、とも思った。だが、下手にこちらから話を持ち掛けると、傘下に入ることを強要されていると思われちまう可能性もある。別にオレらとしても縄張りを広げたいなんて思いはないから、わざわざこちらから行動を起こすようなこともないのだが。
オレが名無しさんの家に荷物を下ろすと、名無しさんは

「今から船に戻ってたら遅くなっちゃうね…。」
と申し訳なさそうに言った。

「歩いて戻ればな。」
とオレが言うと、名無しさんは首を傾げた。そんな名無しさんを引き寄せて軽くキスをしてから、

「大した用事じゃねぇと思うから、明日には戻れると思うよい。」
と告げると、名無しさんは微笑みながらオレの頬を撫でた。ここで「早く戻ってきて」と言わないのがなんともこいつらしいと思いながら、オレが外に出ると名無しさんも見送るためかついてきた。

「じゃ、行ってくる。」
そう言ってオレが変身すると、名無しさんが

「え?」
と声を上げた。

「な?飛んじまえばすぐだよい。」

「…不死鳥、マルコ…。」

「…知ってたのかい?」

「聞いたことはあったから。…綺麗ね。」
そっとオレの翼に触れてから、名無しさんは一歩下がった。それを合図にオレは飛び立つと、一回大きく上空で旋回してからモビーを目指した。



船大工たちの話は大した用事ではなかったから、翌日早々にオレは名無しさんの家に戻った。今までも上陸した島で気になる女がいなかったわけじゃねぇ。若い頃にはその手の商売の女の家に数日転がり込んだこともあった。だが、ここまではまった女はいなかった。久々に戻ったモビーの自室で、一人ベッドで寝るのがこれほど虚しいものだと感じたことはなかった。寝返りを打ちながら、名無しさんをモビーに乗せる方法はないかとも考えた。だが、自分の身も守れない、ナースでもない女をこの船に乗せるわけにはいかねぇ。しかも、名無しさんもそれを理解しているのか、オレについて行きたいとも、ここに残って欲しいとも言わねぇ。ただ、オレたちの航海の話をとても楽しそうに聞いているのが気になって、一度だけ「島を出てぇと思ったことはねぇのかい?」と聞いたことがあった。それに対して名無しさんは、瀕死の状態でこの島に流れ着いた自分をここの島民が救ってくれたと、だから、この島で島民に恩返しをしたいから島を出るつもりはないと話した。だが、この島に流れ着く前に何をしていたのか、なぜ漂流することになったのかについては、語ってはくれなかった。
もしかしたら、期限付きの関係がオレたちをますます燃え上がらせたのかもしれねぇ。昼間は一緒に食事をしたり、海を見に行ったり、買い物をしてまるで堅気のような穏やかな時間を過ごし、夜はむさぼるようにお互いを求めた。
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