短い夢@
□守らねぇ
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しばらくして、比較的大きな島に上陸した。せっかくの大きな島だったが、ログが貯まるまで数日しかなかったから結構忙しかった。ナースたちの医療関連の買い出しもひと段落した頃、気分転換に街をぶらぶらと歩いている時だった。
「マルコ隊長!」
後ろから名前を呼ばれて振り向けば、名無しさんが駆け寄ってきた。
「お忙しいところすみません。サッチ隊長を見ませんでしたか?」
「サッチ?いや、見てねぇな。何かあったのか?」
「買い出しを頼まれているのですが、指示を受けた食材の確保が難しそうで…。代わりの物を買うべきか相談したいんです。」
「そうかい…。明日出航だもんな…。」
今判断しなけりゃ間に合わねぇ。だから名無しさんも焦ってるんだろう。
「あいつも買い出しをしてんのかい?」
「いえ…。もう昨日の段階でほぼ終わっていたので、多分隊長は買い出しはしてないと思います。」
「と、なると…食材関連の店にはいねぇか…。」
「いつもどの辺にいるかご存知ですか?」
名無しさんにそう聞かれて思い浮かぶのは飲み屋かその手の姉ちゃんがいる店。そう思った瞬間、どう説明しようかと悩んでるのが顔に出ちまったのか、名無しさんは
「あー…その手のお店ですかね?」
と言って苦笑いした。
「…そうかもしれねぇが、そうじゃねぇかもしれねぇ。まだ明るいしな…。」
「と、なると。暗くなる前に見つけないと探すのが面倒ですね。」
「そうだな。オレは今、街の中心部から来たが、あっちにはサッチの寄りそうな店はなかったよい。」
「そうですか。私もさっきまで市場で食材を買ってましたが、あっちでも見当たりませんでした。と、なると…。」
「ああ。やっぱり歓楽街だよい。」
名無しさんは大きくため息をつくと、仕方ないな、という顔をして
「ありがとうございます。行ってみます。」
と言うと、そのまま歓楽街に向かって歩き出そうとした。
「待て。オレも手伝うよい。」
オレがそう声をかけると、振り向いた名無しさんが驚いたような顔をして、
「え?い、いえっ!大丈夫です!」
と目の前でブンブン手を振りながら言った。
「いやいや。一人で探すには広すぎるよい。」
「そんな。マルコ隊長も明日の出航前にいろいろお忙しいでしょうし…。」
「オレの買い出しはもう終わってるからこのあと特に予定もねぇ。四番隊の買い出しはオレも食う大事な食糧だからな。必要なもんが買えねぇのはオレも困るよい。それに、女一人じゃ入りにくい店もあるだろい?」
笑いながらそう言うと、名無しさんペコリと頭を下げて
「ありがとうございますっ!」
と言った。
酒場やパブが並ぶ歓楽街を順番に覗いていこうとしていると、前の方にジョズが歩いているのが見えた。オレが走り出すより先に名無しさんが駆け出すと、
「ジョズ隊長っ!」
と後ろから声をかけた。名無しさんと話しているジョズに近寄ると、オレに気が付いてジョズが手を挙げた。
「マルコ隊長、ジョズ隊長が先ほど少し先の方ですれ違ったそうなんです。」
名無しさんが振り向いてオレにそう言うと、ジョズは
「ああ。ついさっきな。」
と言いながら後ろを振り返った。
「だが…姿が見えねぇな。その辺りの店で飲んでるかもしれねぇ。」
ジョズがそう言うと、
「ありがとうございますっ!」
と言って名無しさんが駆け出した。オレはジョズの肩をぽんと叩いて、
「ありがとよい。」
と言うと、小走りで名無しさんを追った。
サッチはすぐに近くの酒場で見つかった。名無しさんが状況を説明すると、サッチは
「なるほど。」
と頷きながら、
「おいっ!マルコ!」
とオレに声をかけてきた。話を聞けば、予定していた生肉の量が確保できない代わりに、干し肉で代用したいが、そうなると予算オーバーらしい。
「他に魚や豆・卵などの代替品も考えたんですが、結果的に一番コストを抑えて量を確保できるのが干し肉だったんです。」
申し訳なさそうに名無しさんが補足した。
「クルーにひもじい思いをさせるわけにはいかねぇしな。名無しさんが代替案まで検討して、それが最善の対応だってんなら、それで行くか。」
オレがそう答えると、サッチも満足げに頷いた。
「よしっ。そうなったら、その干し肉が売れちまう前に確保だ。おいっ!」
サッチが隣にいた四番隊の隊員数名に声をかけた。
「今の話聞いてたよな?頼んだっ。」
「隊長、大丈夫ですっ!私が…。」
名無しさんが慌ててそう言うと、サッチは
「おまえは朝から買い出ししてオレを探して走り回ってたんだろ?って言うか、昼飯食ったか?」
と言って名無しさんを見た。
「え?あ、ま、まだですけど…。」
「ほら、見ろ。店で買って船まで運んでたら、終わるころには昼飯どころか晩飯の時間になっちまうぞ。」
「ああ。オレらに任せて、名無しさん、おまえは昼飯食ってこい。」
「ひとっ走り行ってくらぁ。って言うか、サッチ隊長、オレらを置いて先に遊びに行かねぇでくださいよ。」
「わかってるよっ!さっさと行けよっ!」
「ほら、名無しさん、金よこせ。」
「す、すみませんっ!よろしくお願いします。」
名無しさんは慌ててポケットから金を取り出すと、四番隊の隊員に渡した。バタバタと駆けていく仲間を見送ったところで、
「じゃ、昼飯食いに行くかい?」
とオレが声をかけると、
「え?あ、でも、みんなが戻ってから…。」
と名無しさんが申し訳なさそうに言った。
「アホ。食ってこいって言われただろ?おまえの仕事はもう終わったんだ。気にしねぇで食ってこい。」
サッチがすかさずそう言うと、オレを見て
「頼んだぜ。」
と笑った。