短い夢@
□知恵の輪
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「ん?」
何とかひねって知恵の輪を解こうとしている名無しさんの手に、マルコの大きな手が重なった。
「ほら。こうだよい。」
重なったマルコの手が名無しさんの手を誘導すると、するりと知恵の輪が外れた。
「あ。」
「わかったかい?今度は…。」
マルコは再び知恵の輪を持ったままの名無しさんの手を握ると、さっきと逆の動きで知恵の輪をもとに戻した。
「…戻った。」
そう言いながら名無しさんは今度は自分一人でさっきの動きを再現してみた。絡まっていた知恵の輪がするりと抜ける。名無しさんは逆の動作をして知恵の輪をもとに戻した。
「できた!」
嬉しそうに名無しさんが声をあげると、
「よかったな。」
とマルコが名無しさんの耳元で言った。
そこで名無しさんは再び触れたマルコの手に、自分の置かれている状況に気が付いた。
「…あの…マルコ?」
「ん?」
マルコは名無しさんの手を握っている、というよりは、後ろから抱き着いてるという状況だった。知恵の輪も外れたし、マルコの腕も離れるかと思ったのだが、なぜかそれは離れない。それどころか、マルコの顎が名無しさんの肩に乗った。
「さて。この知恵の輪、どう外す?」
「…。」
耳元で囁かれた名無しさんは、思わずビクン、と反応してしまって焦る。早まる鼓動がマルコに筒抜けなのではないかと思うが、止められるはずもない。
「力を使っても、外れねぇよい。」
(そ、そんなことはわかってるよ!)
心の中でマルコに文句を言いながらも、再び囁かれたマルコの声に耳元がゾクゾクする。どう外すかを考えなくてはならないのだろうが、名無しさんとしてはこのままでも構わないんだけど、なんて思ってしまう。とは言え、ここは甲板。いつ誰が来るかわからない。さすがにこの状況をみられるのはちょっと恥ずかしい、と思ったところで名無しさんは口を開いた。
「マ、マルコの部屋に行かない?」
「…。」
一瞬、沈黙が流れる。
「調子に乗るんじゃねぇよい」なんて言われたらどうしよう、と内心ビクビクしていた名無しさんは、次の瞬間ほっぺたに柔らかいものが触れるのを感じると、すぐに耳元で
「そりゃ、なかなかいい外し方だよい。」
と聞こえて、自身の体が解放されたのを感じた。だが、解放されたのも束の間、すぐにマルコに引っ張り上げられる。
「でも、すぐにもとに戻すけどな。」
ニヤリと笑ったマルコにそう言われて、名無しさんは一瞬固まったが、すぐに気を取り直すと、するりとマルコの腕に自分の腕を絡めた。
「今度戻したらもう外れないよ?」
そう言って名無しさんが上目遣いにマルコを見上げると、
「一回外したら満足だろい?もう外す必要はねぇよい。」
と言ってニヤリと笑った。