短い夢@

□白ひげ海賊団のリスク管理
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別れを告げても何も言わなかったマルコが、翌日「話がしたい」と言ってきたのは驚きだった。しかも、「許してもらえるのか?」なんて、自分の非を認めるような発言をしたことはもっと驚きだった。でも、マルコに告げたことがすべてだった。私の不満を解消するために頑張ってくれるなら、それはそれで嬉しいけど、きっとそんなの長くは続かない。そうやって無理してつきあってもいつか限界が来る。
もっとあっさり、どうでもいいように「さようなら」となると思っていたから、「私といても楽しくないでしょ」と言ったことを否定しようとした時には少し心が揺らいだけど、結果的にあれ以降何も言ってこないことが答えだと思った私は、なるべく平静を装って生活をしていた。それでも、マルコを見てしまうとやっぱりつらかったから、私はなるべくマルコを視界に入れないようにしていた。


最後にマルコと話をしてから二日ほどたった頃、夕食を食べ終えて食堂に座っていた私のところへイゾウとサッチがやってきた。

「名無しさん、ちょっといいか?」
サッチにしては珍しく神妙な面持ちで声をかけてきた上に、横にイゾウもいたからいつものくだらない話ではなさそうだと思った私は、黙って頷いて二人について行った。人気のいない甲板に出たと思ったら、そこにはラクヨウとエース、ジョズもいた。

「…どうしたの?」
隊長陣総出でのお出迎えに、私は何かやらかしただろうかと身構えた。

「そんなに固くなるなって。」
そう言って、サッチが私の肩をポンと叩く。でも、なんだかそれが逆によそよそしいというかなんというか。私を取り囲む他の隊長も心なしか緊張しているようにも見えた。

「ゴホン。」
というイゾウの咳払いに振り向くと、

「呼び出してすまねぇ。その…マルコと別れたってのは本当かい?」
とイゾウにしては珍しく、戸惑いがちに口を開いた。

「…うん。」
なんでこんなことを隊長陣に取り囲まれて聞かれるのかと疑問に思いながらも肯定の返事をすると、

「おまえがマルコをふったのかい?」
とさらに質問された。

「…。まぁ、そういうことになるのかな。」

「マルコはおまえに愛想つかされちまったって言ってたんだがそうなのかい?」

「…。なんでそんなこと聞くの?」
募る不信感についそう言うと、イゾウが慌てて

「待て。おまえさんを責めるつもりはねぇ。」
と言った。
こんなに慌てるイゾウを見たのは初めてかもしれない。隊長に取り囲まれていることも、こんな質問されることも、こんなに焦っているイゾウを見ることも、すべてが全く「異常」で私は何が起きているのか全然理解できなかった。
イゾウはチラッと周りにいる隊長陣に視線を送ると、これまた珍しくずっと黙ったままのサッチが、イゾウを見て「言えよ」という感じで顎を動かした。それにこたえるように、イゾウがもう一度私に視線を移した。

「その…。こんなこたぁオレらが口出すべきじゃねぇってのは重々わかってはいるんだが…。」

「…。」

「マルコとよりを戻すってのはありえねぇ話なのかい?」

「え?」

「考え直してはもらえねぇかい?」
まさか全くの第三者からこんなことを言われるとは思ってもみなかった私は、驚いて何も言えなくなってしまった。だが、隊長総出でこんなところに呼び出して、こんな要求をされることにふつふつと怒りがこみあげてくる。

「なんであんたたちにそんなこと言われなきゃならないの?」
思いっきりイゾウを睨むと、イゾウの顔が引きつる。これもまた、めったに見られない光景だ。

「待てっ!わかってるんだ、本来はオレたちが口出すことじゃねぇっ!」

「だったら、一体なんなのよっ!」

「お、落ち着け、なっ?」
そこでサッチがイゾウと私の間に入ってきた。

「オレらも本当はこんなことしたくねぇんだっ!でもよ、ここ最近のマルコがあまりに…。」

「は?マルコが何なのよっ!」

「は?って、おめぇさん、気がつかねぇのかい?」

「…何に?」
そこで隊長たちがお互いに顔を見合わせる。

「明らかにおかしいだろ?まるで抜け殻だぜ?」
ラクヨウがそう言うと、

「飯もほとんど食ってねぇ。」
とサッチ。

「オヤジも頼んだもんが何にも上がってこねぇって、とうとうオレ達にまで相談してきた。」
腕組みをしたジョズが困ったように言った。

「…そ、そうなの?」

「知らねぇのかい?」
イゾウにそう聞かれて、

「…その、敢えて見ないようにしてたから…。」
と答えると、

「そんなにマルコが嫌いなのか?」
とエースが聞いてきた。

「き、嫌いってわけじゃないけど…。」

「なぁ、やり直せないか?あんなマルコ、見てらんねぇ。」
そう言ったエースに、一瞬戸惑いはしたものの、私の怒りはやっぱり収まらなかった。

「何の?さっきからっ!つまり、何?私にふられてマルコが元気ないから、やり直せっていいたいの?冗談じゃないっ!」
いきなり怒鳴った私に、隊長たちが固まる。

「私だって、適当な気持ちで別れたわけじゃないっ!マルコにははっきり言ったけど、このままつきあっても、どっちかが我慢し続けるだけで、いいことなんてないって思ったから、だから別れるって決めたのっ!第一、マルコ本人がやり直したいって言ってるわけじゃないでしょ?なんであんたたちが口出すのよっ!別れる理由をマルコに説明して、それからマルコが何も言ってこないんだから、それでいいじゃないっ!」

「い、いや、た、確かにだなぁ…。」
サッチが何かを言おうとしていたが、私はそれを抑え込むように続けた。

「そもそも、私と一緒にいてもいつも面倒臭そうにしてるのはマルコだよ?私といるより、仲間といるのを優先するのもマルコだよ?だったら、私のことなんか気にしないで自由にできる方がいいに決まってるじゃないっ!」
私は大声を張り上げていたことに気がつくと、深呼吸をして自身を落ち着かせた。

「マルコが落ち込んでるなら、きっとそれは私にふられるなんて思ってなかったからショックを受けてるんだよ。もしかしたら、そういう意味ではプライドを傷つけちゃったのかもしれないけど…。私からマルコに告白したし、きっとみんなも私がいつもマルコを追いかけてたのを知ってると思うけど…。なんて言うか、その…飼い犬に手を噛まれたみたいで落ち込んでるんじゃないかな。」
隊長たちは、もはや口を挟むことなく黙って私の反論を聞いていた。

「実はつきあってる間、結構マルコの手伝いはしてたから、もし、それがなくなったのが原因でいろいろ止まってるなら、手伝いはこれからもするつもりだよ。それは仲間として、一番隊の隊員として、白ひげ海賊団のためだから、マルコとつきあってるとかそういうのとは関係ないから。だから、そこについては、私からマルコに話をするよ。」
イゾウとサッチが顔を見合わせる。

「その…マルコの手が止まっていることは全然知らなかった。結果的に私たちのせいでみんなに迷惑をかけちゃったのは申し訳ないと思う。でも、私とマルコがよりを戻しても、解決にはならないよ。だって、マルコは別に私のことが好きでつきあってたわけじゃないもん。きっと突然のことで一時的に落ち込んでるか、お手伝いがいなくなってやる気をなくしてるだけだよ。」
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