短い夢@

□白ひげ海賊団のリスク管理
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翌日。チェックアウトギリギリまで宿に残っていた私は、その後ブラブラと店を覗いたりカフェでダラダラして、結局夕方近く、出航直前になってモビーに戻った。夕食を終えて女部屋に戻ろうとすると、食堂を出たところでマルコが立っていた。

「昨日はどこ行ってたんだよい。」
腕を組んで不機嫌そうに言ったマルコに、

「宿とった。」
とだけ返事をすると、マルコの眉間に皺が寄った。

「戻るって言ってたじゃねぇかい。」

「そのつもり、って言っただけ。約束はしてないでしょ。」

「戻ると思って待ってたもんの身にもなれよい。何かあったのかと心配したじゃねぇかい。」

「約束してもすっぽかす人に、約束してもないことでとやかく言われたくないんだけど。」

「あぁ?」

(何よ、自分は私との約束すっぽかして、他の子とデートしてたくせに。)
内心そう思いながら、マルコの横をすり抜けようとすると、腕を掴まれた。

「何なんだよい、一体。」

「別に。」

「…。」
珍しくマジ怒りしているマルコが私を睨んだ。きっとマルコをよく知らない人から見たらその目つきの悪さにビビるんだろうけど、機嫌の悪いマルコを見慣れている私はガン飛ばされるくらいでは動じない。負けじと睨み返して掴まれた腕を振り払うと、マルコの舌打ちが聞こえた。

「可愛くねぇなぁ。」

「…。」

(どうせ、あの子に比べたら、見た目も性格も可愛くないですよっ!)
心の中で悪態をつくと、私は女部屋に駆け込んだ。
ムカついた。ものすごくムカついた。いつもこうだ。私は悪くないのに。マルコのわがままにつき合わされて。どうせ、昨日待ってたって言うのも、ヤル気満々で肩透かしを食らったから怒っているだけだろう。私の心配だなんだは後からとってつけたようなもんだ。

「はぁ…。」
イライラマックス状態から少し落ち着きを取り戻すと、今度は一気に虚しくなってきた。
大好きだから一生懸命尽くしてきた。マルコがオヤジや仲間のために頑張っているから、力になりたかった。最初の頃はマルコも喜んでくれたし、感謝してくれた。マルコが私には疲れ切った姿を見せたり、たまに、本当にたまにだけど甘えたり弱音を吐いたりするのが、誰も知らないマルコを私だけが知っているようで嬉しかった。事実、何かの時に「おまえの前では素でいられるよい」と言ってくれたことさえあった。でも、最近はこんな私の努力とか我慢が全部「当たり前」になってしまった気がする。マルコがオヤジの用事や仲間との付き合いを優先するのが当たり前。疲れ切ったら、二日酔いなら、私との約束は後回しなのが当たり前。でも、実はその「当たり前」状態が問題なのではない気がした。いいんだ。オヤジを優先するのは絶対だし、私にべったりで仲間と一緒にいないマルコなんて、マルコじゃない。

「…。何だろう…。全然、大事にされてる気がしないのかな…。」
そう。当たり前になっても、マルコから感謝とか、愛情とか、そういうものが感じられれば頑張れる。でも、もうそんなものを感じることはめったにないのだ。むしろさっきのような喧嘩ばかりが増えていく。

「なんだか、な…。」
何かが私の中でサーっと冷めていくような感じがした。こんな関係を私はずっと続けるのだろうか?ずっと我慢して、たまに相手にしてもらえることに期待して頑張っていくのだろうか?これが惚れた弱み、というものなのだろうか?
いや、もしかしたら私がこの関係を続けるつもりでも、マルコの方から突然終わりを告げられるかもしれない。マルコがもっと一緒にいて楽しいと感じる人が現れたら、私の存在なんてすぐにどうでもいいものになるだろう。それこそあの新人ナースとあんなに楽しそうにしていたのだ。そういうことが起きるのも時間の問題なのかもしれない。
何とか誤魔化し誤魔化しつなげてきた気持ちがプツリと切れたような気がした。
不満を抱えたまま、ずっと我慢し続けるなんて辛すぎる。その上、いつかマルコから別れを告げられるくらいなら、先に自分から終わらせた方がいい。

「それに…。」
きっと別れを告げても「そうかい。好きにしろい。」としか言わないだろう。顔色一つ変えず、そう言い放つマルコしか想像できない。

「もう、いいかな…。」
思わずそう口に出してみると、「マルコと別れる」ということが一気に現実的になった。


翌日。マルコは忙しいのか食事の時間意外で見かけなかったから、私は直接マルコの部屋に出向いた。ドアをノックすると、

「入れよい。」
という声が聞こえたから、私はドアを開けたのだが。

「なんだ、おまえかい。」
入ってきた私を確認するなり、マルコは気の抜けたような顔をしてそう言った。思わず「何、その言い方。」と文句を言いそうになって、私は口をつぐんだ。

「ちょっと、話があるんだけど。」
入ってきたのが私だと確認すると、すぐにまた忙しそうに机に向いてしまったマルコにそう告げると、マルコは

「急ぎか?今立て込んでるんだよい。」
と面倒臭そうに言った。

(別れ話さえ、こんな扱いなのか…。)
もちろん、マルコは私が何の話をしに来たのかは知らないはずだけど。他の人が来ればにこやかに「なんだい?」と目を見て言うくせに、私に対してはいつもこんな感じだ。

「…。ごめん。すぐに終わるから。」
そう言ったものの、相変わらず机を向いたままこっちを見てくれないマルコに、最後までこうなのかと目頭が熱くなるのを感じた私は、大きく深呼吸をすると、頭の中で練習してきた言葉を彼に告げた。
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