長い夢「何度でも恋に落ちる」

□ Happy Birthday
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しばらくたわいもない話をしていたが、マルコは体を起こして座ると、

「そろそろ帰るか。昼飯に間に合わなくなる。」
と言いながら立ち上がった。

「偵察は?狭くてやばそうな箇所を確認しとけばいい?」

「ああ。ま、オレも見るけどな。一隻ずつじゃねぇと通れないところは待ち伏せされるとやっかいだから確認しておきてぇ。あと、迂回ルートがあるかどうかだ。」
そう言うと、マルコは不死鳥に変身して名無しさんに背を向けた。名無しさんがマルコの肩に捕まる。

「ところで、おまえは一体何キロあるんだい?」

「レディに対して体重を聞くなんて失礼じゃない?」

「レディ?なんだい、そりゃ?新種の海王類かい?」

「…。飛んでるときに頭の羽むしるよ。」

「…。しっかり掴まっとけよい。」

「ちょっと、聞いてるのっ?って、わぁっ!」
大きく翼を羽ばたくと、マルコは崖を飛び降りた。海からの風を受けて旋回すると、航路を確認できる位置まで上昇する。マルコは背中に座る名無しさんと注意したほうがよさそうな場所を確認しながら、ゆっくりとモビーに向かって飛び続けた。



「お疲れさん。」
モビーに降り立ったマルコが人間の姿に戻ると名無しさんも甲板に着地した。

「やばそうな場所は3か所くらいか。そこだけはどういう順番で通り抜けるか考えねぇとな…。」
そう言いながらマルコが顔をあげると、その表情が一気に歪んだ。不思議に思って名無しさんが振り返ると、サッチとラクヨウがニヤニヤ笑いながら立っていた。

「よぉ。お二人さん。」

「デートは楽しかったか?」
この二人を見て、やっと名無しさんはマルコが出発直前に言っていた「あいつら」の意味を理解した。

「デートじゃねぇ。偵察だ。」
むすっとした顔でマルコがそう答えたが、サッチとラクヨウはニヤニヤしながらマルコをひじでつつく。

「ああ?おまえ、いつもは一人で行くじゃねぇかよ。」

「だからなんだい。たまには隊員を連れて二人で行ったっていいだろい。」

「に、しても。おまえが誰かを背中に乗っけてるのなんてめったに見ねぇからな。」

「あ?じゃ、こいつを足で掴んで運べって言うのかよいっ。」

「あああー、ちょ、ちょっと待って!」
マルコがどんどん不機嫌になるのを目の当たりにして名無しさんが間に入る。

「私がお願いしたのっ!この前マルコに乗せてもらって帰ってきたでしょ?また飛んでみたいって思ったから、私が偵察に行くマルコに無理言ってお願いしたんだってっ!」
名無しさんの発言を聞いて、サッチとラクヨウが顔を見合わせた。すると、サッチが、ポン、と手を叩いた。

「そういやぁ、おまえ昨日誕生日だったんだろ?マルコから聞いたぜ。」

「ああ。それで珍しくお姫様のお願いを素直にきいたってわけか?」

「だから、偵察だって言ってんだろいっ。」

「って言うか、何でおまえ誕生日だって言わねぇんだよっ!」
相変わらず仏頂面で偵察だと言い張るマルコを無視して、サッチは名無しさんの肩をバシンと叩いた。

「わかってりゃサッチ様の特性ケーキを焼いてやったのによぉ!」

「え?」

「何言ってんだい。昨日は一日中会議だったんだから無理だよい。」

「いやいやいや。名無しさんの誕生日だぞ?そんなの会議後回しでケーキだろーがっ!」

「…って、おまえ、会議を抜け出す理由が欲しかっただけじゃねぇのか?って言うか、だったら今から作れよ。」
マルコとラクヨウからの突っ込みにもめげず、サッチは

「そうだなっ!よしっ!今日のおやつ、楽しみにしとけよっ!」
と楽しそうに言った。

「え?本当?ケーキ作ってくれるの?」

「おぅよっ!何しろこの男所帯でケーキ作ることなんてめったにねぇからなぁ。それに、オレ様が絶品のケーキを作ったって、味のわかる奴は限られてるしよぉ。」
ポカンとする名無しさんに、マルコは

「よかったな。」
と言うと、そのまま船内へと消えて行った。

「あ!おいっ!マルコ、逃げんなよっ!」

「うるせぇ!偵察結果を親父に報告すんだよいっ!」

「よぉっしっ!久々のケーキだ!気合入るぜっ!」
騒がしい3人が船内に消えて行くのを茫然と見送っていた名無しさんは、嬉しさで熱くなる目頭を隠すようにしながら、3人の後を追った。
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