長い夢「何度でも恋に落ちる」

□ Happy Birthday
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「ケチ。」
マルコの部屋から出てきた名無しさんは、さっきと同じセリフをつぶやいた。がっくりと肩を落として自分の部屋に戻る。

(誕生日だなんて、言わなきゃよかった。)
名無しさんは、もし、マルコに一緒に飛ぶのを却下されたとしても、もしかしたら「今度上陸したら飯でも奢ってやるよい。」とか「次の島で欲しいもんでも買ってやるよい」なんて言ってもらえるかもしれないと期待していた。別にマルコに奢って欲しいわけでも、何か金品をもらいたいというわけではなく、そうなれば、次に上陸したときに一緒にいられるからだ。

(ちょっといい感じかもしれない、なんて思ってたのは私だけか…。)
マルコに伝えるかどうか、名無しさんは迷った。でも、あの遭難以来明らかに近づいた関係に、脈があるのではないか、と思った。最悪何もなかったとしても、せめてマルコに「おめでとう」と言ってもらえるだけでもいいと思っていた。
だが、実際は誕生日だと知っているのに何もしてもらえないというむなしい状況を自分自身で作ってしまった事実に、名無しさんには後悔しかなかった。
とは言え、当日になったら何かあるのではないか、という淡い期待を抱いていた名無しさんは、結局悶々としたまま終日過ごし、最終的には落胆したまま自分の誕生日を終えた。マルコが言っていたとおり、その日は一日中隊長会議だったのか、マルコを見かけなかったし、そのほかの隊長陣と顔を合わせることもなかった。だから、何かあるかも、どころか、マルコに「おめでとう」と言ってもらえる機会もなかったのだ。
名無しさんは今まで誰にも自分の誕生日を告げたことはなかった。きっとサッチあたりに言えば、喜んで巨大なケーキを作ってくれるような気もしたが、いつも忙しいサッチにそういうことをしてもらうのは気が引けたし、必要以上に周囲の注目を集めたくない、というのもあった。「誕生日を祝ってもらう」というのはなんか子供っぽいような、女子っぽい気がしていたのもあって、若いころは意地もあって敢えて言わなかった。そして、逆に一定の年齢になってしまうと、確かにマルコの指摘のとおり、今さら祝うのもどうかと思うようになったのだ。
だから、名無しさんが生まれて初めて自らの誕生日を伝え、祝って欲しいと頼んだのはマルコだけだった。
名無しさんが自室のベッドに寝転んで、真っ暗な天井を眺めるころには、もう日付は変わっていた。名無しさんは横を向いて丸くなると、ぎゅっと目をつぶった。
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