長い夢「何度でも恋に落ちる」
□帰還
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マルコがヤシの実を割るために名無しさんにナイフを貸してくれと声をかけようとした時だった。
「…どうした?」
名無しさんが海の方をじっと見たまま固まっているのに気が付いたマルコがそう声をかけたが、名無しさんはまるで何も聞こえていないかのように反応しない。
「…おい。」
もう一度声をかけると、名無しさんは海を見たまま
「…モビー、かも。」
と囁いた。
それを聞いたマルコは、同じように名無しさんが見つめている水平線をじっと見てみたが何も見えない。しかし、名無しさんの見聞色の覇気の強さをよく理解していたマルコは、黙って名無しさんの次の言葉を待った。
「多分、そうだと思うんだけど、遠すぎてはっきりしない。」
「こっちに向かってきてんのかい?」
「ん…。」
名無しさんはぎゅっと目をつぶって神経を集中させる。
「多分…。」
「モビーだけかい?近くに海軍の気配は?」
「他の気配はないと思うから、多分大丈夫。」
名無しさんを見ていたマルコは、さっき名無しさんが見つめていた水平線に視線を戻すと、
「あっちの方角で間違いねぇかい?」
と聞いた。
名無しさんはゆっくりと目を開くと、再び水平線を睨んだ。
「うん。」
「よしっ。」
名無しさんの返事を聞いたマルコは、手にしていたヤシの実を砂の上に置いて立ち上がった。振り向いて自分を見上げた名無しさんに
「行くぞ。」
と声をかけると、不死鳥に変身する。
「え?」
戸惑う名無しさんを意にも介さず、マルコは数歩海に向かって歩くと、名無しさんに背を向けたまま、
「掴まれよい。」
と言った。
「え?」
「早くしろい。こんな小っちぇ島にモビーをつけるのは面倒だ。こっちから行っちまった方が早ぇよい。」
どうやら飛んでいく気らしいことを理解した名無しさんは恐る恐るマルコの肩のあたり(鳥だけど)に腕を回した。
「しっかり掴まっとけよいっ!」
そう背中に声をかけると、マルコは大きく羽ばたいて宙に浮いた。
「うわぁ。」
マルコが高度を上げ続ける間名無しさんは必死にマルコの首にしがみ付いていたが、一定の高度を保って水平飛行を始めると、両手を突っ張ってバランスを取りながらマルコの背中に座った。
「こっちの方角でいいのか?」
「うん!近くなってるから間違いないよっ!」
「よしっ!」
名無しさんに確認を取ったマルコがスピードを上げる。
「すごーい!!気持ちいいっ!でも、寒いーっ!」
名無しさんがマルコの背中で楽しそうに叫ぶのを聞いて、マルコはニヤッと笑った。が、そこで前方の海面に小さなものを見つけた。
「あれかい?」
「え?」
「前に見えねぇかい?」
「えー?全然見えないよっ!」
鳥である自分の目の方がよく見えるのかもしれないと思ったマルコは、そのまま見えたものに向かって飛び続けた。しばらくしてマルコの目にはっきりとモビーの形が見えてくると名無しさんも「見えた!」と叫んだ。
「親父だっ!」
甲板には親父が仁王立ちして空を見上げていた。周りには隊長陣が囲んでいる。
「おーいっ!」
名無しさんが大きく手を振った瞬間、マルコが急降下を始めた。
「きゃっ!」
名無しさんは慌ててマルコの首にしがみ付いたが、甲板まであと5メートルほどまでに近づくと、両手を離して足から着地した。マルコも同時に人間の姿に戻って甲板に降り立った。