短い夢@

□試し試され最終的に
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それから数日、忙しいのと気まずいのとでオレは十六番隊の作業場には足を向けなかった。名無しさんも一番隊の作業の方には顔を出さなかった。十六番隊全員総出で仮眠を取りながら作業して、何とか今日中に帆の修理が終わる、と報告を受けたのは、海軍の攻撃を受けた4日後のことだった。
酒を飲みながらオレからの各隊の進捗状況報告に耳を傾けていた親父が、盃の酒を飲み干すと、じっと遠くの海を睨んだ。

「…そろそろ来るかもしれねぇな…。マルコ、今晩の見張りは倍に増やせ。気を抜くな。」
こういう親父の勘は的中する。オレは静かに頷くと、すぐに指示を出しに行った。
そして、親父の勘はあたった。早朝、まだ薄暗い中、見張りの一人が船長室に駆け込んできた。オレは船長室の近くで仮眠を取っていたから、すぐに飛び起きると朝日と反対、西の方に船団が見える、との報告を聞いた。きっと奴らは不意打ちを狙っていたのだろう。それをわかっていたオレらは敢えてギリギリまで海軍が近づいていることに気が付いていないかのように行動した。明け方の薄暗さに紛れて静かに近づいてくる海軍を静かに待ち受けたのだ。そして、あいつらが砲弾を撃ち込む直前を狙ってこちらから攻撃をしかけた。
作戦は大成功。万が一に備えて待機していた親父の出る幕もなかった。不意打ちのはずが逆に反撃を受け、海軍は簡単に沈んだ。損傷があったはずの船も武器も見事に修理され、万全の態勢で迎えられるとは思っていなかったのだろう。圧勝という言葉がふさわしかった。
その日の宴はいつになく盛大だった。直前まで酒も飲まずに復旧作業に注力していたこともあって、勝利の美酒はまさに「美酒」だったろう。特に帆の修理に全力を尽くした十六番隊は皆から労いの言葉をかけられていた。各所でお互いの功績を労いながら酒を飲みかわす中、オレは一人、愛想笑いを浮かべてあたりを見回していた。
酒盛りをする十六番隊の輪の中にも、一番隊の輪の中にも、名無しさんの姿が見えなかったのだ。
十六番隊の面々が飲んでいるところに近づくと、誰かが、

「おい、名無しさんはどうしたんだよっ!今回の一番の功労者はあいつなんじゃねぇのか?」
と怒鳴っていた。

「さすがに疲れたからってさっき女部屋に引っ込んでいったぞ。」

「えええっ!?そうなのか?何だよ、つまんねぇなぁっ!」

(…飲んでねぇのか?)
十六番隊の奴らの会話を聞いて、ふと振り返ると、イゾウが立っていた。

「本当にもらっちまっていいのかい?」

「っ!」

「十六番隊は大歓迎だ。今回の一件で隊員との信頼関係も問題ねぇ。ただ…。」
イゾウはニヤッと笑うと、持っていたキセルをポンと叩いて中の灰を落とした。

「当の本人がふとした瞬間に明らかに落ち込んでる様子を見ちまうと、もろ手を挙げてもらっちまっていいもんか悩むよなぁ。」
イゾウはキセルに新しい葉を詰めて火をつけながら、オレに視線を移すことなく続けた。

「けど、そっちにいて泣かされちまうくれぇなら、こっちでもらって大事にしてやりてぇ。」
キセルからオレに移された鋭い視線に、オレは言葉を失った。
本当は「渡すわけねぇだろい」と言いたかった。だが、今となっては名無しさんがどう思っているかわからなかった。
「マルコにはついていけない。今後のこともあるし、十六番隊に行きたい」
そう言われてしまったら終わりだ。そんな状態の名無しさんをオレの隊に引き留めることはできねぇ。

「あいつは…名無しさんは女部屋かい?」
オレがそう聞くと、イゾウはふぅっと煙を吐き出してから

「多分な。」
と答えた。

「…本人の意思を確認してくるよい。」
そう言ってオレは女部屋に向かうべく、イゾウに背を向けた。

「…そんなもん、決まってんじゃねぇかい。」
後ろでそんなイゾウの声がしたが、どっちに決まっていると言っているのかオレには見当がつかなかった。
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