短い夢@
□内緒だよ
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サッチが困惑するのも無理はない。だって、私たちの関係を知らないんだもん。
「別に、私はマルコ隊長がナースとキスしようが、みんなの前でその子を襲っちゃおうが、どーでもいいですけど。」
「そんなことはしてねぇよいっ!」
「っていうか、まだ1番隊は甲板の掃除してるんで、私、そっちに行きたいんですけど。」
「話はまだ終わってねぇよい。まだおまえは納得してねぇだろいっ!」
「納得?何を?だから、別に私はマルコ隊長が誰とどうしようと興味ないですっ。」
「…いい加減にしろよい。」
マルコは急に声のトーンを落とすと、私の腕を掴んだ。
「おいおい。ちょっと待てよ。オレは全く状況が見えねぇぞ。」
不穏な空気にサッチが慌てて私とマルコの間に入った。
「オレと名無しさんはつきあってるんだよい。」
「え?」
サッチが目を丸くする。
「つきあってません。」
もう、別れたもん。そう思って反論すると、
「つきあってるよい。」
とマルコが仏頂面で言った。
「百歩譲って昔つきあってたとしても、もうつきあってません。」
「オレは別れたつもりはねぇよい。」
「ちょ、ちょっと待てよっ!おまえら、つきあってんの?」
「そうだよい。それなのにあんなのをオレにけしかけてそれを名無しさんに見られちまったから、今面倒なことになってるんだよい。」
「だから、つきあってないって言ってるでしょ!」
「ふざけんなよいっ!」
「そもそも、みんなにつきあってることも言えないような、やるだけやってさっさと部屋から追い出すような関係は『つきあってる』って言わないんですっ!」
「っ!そ、それも誤解だよいっ!オレは公にしたほうがいろいろおまえが面倒なことになると思って…。」
「ああそうですか。とにかく、もう別れたんだから、私に関わらないでよっ!」
「別れねぇって言ってんだろいっ!」
マルコがそう大声で叫んだ頃には、私たちは野次馬に取り囲まれていた。
「おまえら、いつからつきあってたんだよ。」
サッチの問いにマルコが
「三か月くらい前だよい。」
と答えると、
「マジか?全然わからなかったぜ…。」
とサッチがつぶやいた。
「別にオレはおまえとの関係がやましいもんだと思ってたわけじゃねぇ。オレの女だってバレると、特別扱いされてると思われたり、逆にそれを気にして無意識におまえに厳しくしちまうんじゃねぇかと心配したからだい。」
マルコはそう言うと、私の頭を撫でようとしたのか、そっと手を伸ばしてきた。
が、そこで、私の真横に誰かが立った。
「マルコ隊長、名無しさんが別れるって言ってるんだから、諦めたらどうっすか?」
驚いて横を向くと、そいつはあの3番隊の奴だった。いやいや、おまえは関係ないだろう、そう言おうと思った瞬間、何かがものすごいスピードで動いた。ドガッという大きな音がしたかと思うと、すぐにまたドンっと何かが壁にたたきつけられるような音がした。
「え?え?」
音のした方を振りむけば、例の3番隊の奴が壁をずるずるとずり落ちていた。そのまま床に倒れるが、意識が完全にないのかピクリとも動かない。ゆっくりと視線を目の前のマルコに移すと、青筋を立てて腕を組んでいる。そこでやっと、さっき見えたのはマルコの蹴りだったと理解する。
「オレの女に手ぇ出そうなんて、100万年早ぇんだよい。」
周りにいた野次馬も声を押し殺して静まり返っている。
そんな外野を気にもせず、マルコは私の手を取ると、マルコの部屋に向かって歩き出した。
「マ、マルコ?」
「ちゃんと説明させろい。それでも別れてぇならもう文句は言わねぇよい。」
マルコの部屋に戻ると、マルコは全部誤解だと話を始めた。説明を聞いて、それでも納得いかないなら文句は言わないと言っていたものの、きっと納得するまで説明を続けるんだろうと思った私は、マルコの「オレは好きでもねぇ女とはやらねぇ。」というセリフを聞いて、許してやることにした。
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「…全く。公にすると面倒なことになるって、むしろ隠してた方がいろいろと面倒くせぇことになってんじゃねぇか。」
サッチは盛大にため息をつくと、まだのびている3番隊の奴の足元に立った。
「おーい、ジョズ!こいつ、どうしたらいい?」
「あ?ああ。」
ジョズはのそっとのびている自分の隊員に近づくと、肩に担ぎあげた。
「とりあえず、男部屋で寝かしておく。」
「全く。こいつにとってはとんだ災難だな。」
「モビーでの仕事もろくに覚えてねぇくせに、女なんか追っかけてるからだ。」
「厳しいね〜。」
船内に消えて行くジョズの背中を見送ると、サッチは大声で周りに声をかけた。
「ほら、おまえら!さっさと配置にもどれよっ!」
それを合図に、白髭海賊団の面々はバタバタと散って行った。
それからしばらくの間、食堂でも飲みの席でも、名無しさんの横に座る男は隊長以外にいなかったらしい。