短い夢@

□内緒だよ
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その後、しばらくオレは名無しさんの行動の意味について考えていた。
たまたま何か用事があったのかもしれない、とも思ったが、そういう時は「ちょっと急ぎでいかなゃならないんだけど、また後で来てもいい?」なんて言うような気がする。事務的な話以外、全く会話がなかったのもおかしい。そして、何よりも、名無しさんの雰囲気がおかしい。いつもなら、二人っきりになった瞬間、それまで我慢していたものから解放されるようにオレに話しかけてきたり触れてきたりするのに。

「何なんだよい…。」
ふと、ここ最近名無しさんがオレの部屋に近寄らなかったことや、島での宿を伝えに来なかったことも頭をよぎる。
嫌な予感しかしない。とりあえずもう一度名無しさんと二人っきりになる状況を作ってみるしかねぇと思ったオレは敢えてストレートに呼び出すのは避けて、用事を名無しさんに任せては、オレの部屋に来る「口実」を与えてみた。
だが、他の隊員に伝言を任せたり、オレが部屋を空けている合間に書類を机に置いて行ったりと、結局名無しさんと部屋で二人きりになることすらなかった。
こうなったらもう、はっきりさせるしかねぇ。
オレは他の一番隊と甲板の掃除をする名無しさんに近寄ると、

「悪ぃがちょっと手伝ってもらいたいことがあるから、今すぐオレの部屋に来いよい。」
と声をかけた。何かを察したのか、一瞬名無しさんの顔が強張る。

「わかった。じゃ、この掃除が終わったら…。」

「いや、今一緒に来てくれ。」
オレはそう言うと、名無しさんの手からデッキブラシを奪い取って、そのまま横にいた他の隊員に手渡した。オレの後ろから名無しさんがついて来ているのを確認しながら部屋に向かう。
部屋に入ってすぐ、

「どうしたの?」
と名無しさんが聞いてきた。オレは名無しさんの手を取って、引き寄せた。

「どうもしねぇ。最近ご無沙汰だから…っ!」
抱きしめようとしたオレの手は振り払われた。

「…。どういうことだい。」
名無しさんは無言のままうつむいていたが、バッと顔を上げるとまっすぐにオレを見た。

「もう、終わりにしよう。」

「…。なんでだい。」
名無しさんはオレから視線を逸らす。

「疲れたから。」

「…。それは…隠すのが、かい?」
名無しさんは大きくため息をつくと、

「みんなに言えないようなやましい関係は続けるべきじゃないよ。」
とうつむいたまま言った。

「別にやましいから言わねぇわけじゃねぇ。どうしてもそこが引っかかるってんなら…。」

「みんなにバレたら、他の女の子を膝にのせたりキスしたりできなくなるよ?」

「え?」

「いくら好きだからって、都合のいい女になり下がるほど、堕ちちゃいないの。」
吐き捨てるように言うと、名無しさんはドアを開けて部屋を出て行こうとした。

「ちょ、ちょっと待てよい!」
オレは慌てて部屋を出て行った名無しさんを追いかけた。

「ありゃ、誤解だよい!」

「誤解も何も。この眼ではっきり見ましたけど。」

「っ!い、いや、あいつは誰にでもああいうことをすんだよいっ。」

「そう。慣れてるんだったら、きっとそういうことしても大丈夫な相手を選んでしたってことだよね。」

「どういう意味だよいっ!」

「彼女がいる人には普通しないでしょ、って意味。」
ずんずん歩いていく名無しさんの腕を掴んで引き留める。くるりとふりむいた名無しさんはまるで海軍と対峙するかのような表情でオレを見ると、

「あまり大きな声を出さない方がいいんじゃない?バレちゃうよ?」
と小ばかにするように囁いた。

「もうこうなったら別に構わねぇよぃ…。っ!おい!サッチ!ちょっと来い!」
オレが名無しさんの肩越しに見えたサッチに声をかけると、サッチが振り向いた。

「サッチ!おまえが面白がってあんな女をオレにけしかけるから、面倒なことになったじゃねぇかっ!おまえからもこいつに説明しろよいっ!」

「何サッチのせいにしてんの?ありえない。」

「え?え?オ、オレ?」

「ほら、あのキス魔だよい!おまえが『面白いことになるから膝に座らせてみろ』って言ったから、あんなことになったんだろいっ!」

「え?あ、ああ…。」
サッチは困惑の表情でオレと名無しさんを交互に見た。
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