短い夢@

□触れる口実
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食堂で見慣れた頭を見つけていつものようにひっぱたく。

「さっさと食って、甲板掃除に行けよい。」

「う、う、うるさいっ!お昼ご飯くらいゆっくり食べさせろっ!」
という喚き声を聞きながら、オレは食堂を後にした。
いつだったか、飲みの席でふざけて頭を叩いたのをきっかけにオレはよくあいつを小突いて遊んでる。本当はもうちょっと優しく触りたいとところだが、まぁ、あからさまにそういうことをするわけにもいかねぇ。ちょっかいを出せばあいつも乗ってくるし、オレと名無しさんのじゃれ合いは最早1番隊の中で定番になっていた。
その後、甲板掃除をする隊員を確認した際も、名無しさんの頭を鷲掴みにしてからかった。オレに蹴りをいれようとする名無しさんに

「おまえの蹴りが当たるわけねぇだろい。」
と言うと、視界につい最近入団したナースが入った。この新人はここ最近何かあるとすぐオレに確認にくる。一度「ナース長じゃわからねぇかい?」と聞いてからは若干回数が減ったが。入団直後に遭遇した敵船との戦いの際に危ねぇところを助けてやってから、どうも気に入られちまったらしい。案の定名前を呼ばれて、名無しさんとじゃれる時間を奪われた。
とは言え、オヤジの命を預かる大事な任務に就いているナースたちを無下にするわけにもいかねぇ。オレは敢えて穏やかに話すことで自分を落ち着かせると、質問に答えた。一方の名無しさんも、オレがナースと話を始めると気を使ってるのか大人しくなる。ナースとの話を終える頃には甲板掃除も終わって、1番隊は用具の片付けに忙しそうだった。



「ナースと飲み会?」

「はい。新しいナースが入ったから、紹介したいって…。」
ヘラヘラと緩んだ顔をで若い隊員が言った。

「勝手にやってもらって構わねぇよい。オレは全員と面識があるからな。」
オレがそう言うと、そいつは慌てて

「いやいやいやっ!マルコ隊長も来てくださいよっ!仕事以外じゃあんまり話できねぇからって、ぜひ隊長も誘って欲しいって言われてるんっすよ。」
と言った。

(面倒くせぇよい…。)
そうは思ったものの、ご指名なら出ねぇわけにもいかねぇ。オレは渋々了承した。つまらねぇ飲み会になりそうだと思っていると、晩飯を食いながらその話を隊員たちがしていたもんだから、オレは名無しさんと周りの女隊員にも声をかけた。名無しさんを誘いたいって下心ももちろんあったが、ナースたちばっかりチヤホヤしてこいつらがへそを曲げても面倒くせぇ。それに、そもそもナースたちに気をつかって飲むより、こいつらと一緒の方がいいとか、むしろ、こいつらと親睦を深めたいって隊員もそれなりにいるからな。

「私たち、邪魔じゃない?」
なんて変な気をきかす名無しさんに

「みんなで飲めばいい。」
と言えば、サッチに差し入れを頼むと嬉しそうに答えてくれた。
とは言え、ご指名だったから、最初からナースを放っておいてうちの隊員と酒盛りを始めるわけにもいかねぇ。飲み会が始まると、オレは甲板の隅で女同士で飲んでいる名無しさん達を視界の隅に確認して、ナースたちと飲む若ぇ衆の近くに座った。

「隊長、お疲れ様っす!」

「おぅ。」

「あ。マルコ隊長。」
オレに気が付いたナースの一人が、顔をあげると、すぐに隣に座っていた例の新人ナースを肘でつついた。すると、その新人ナースは酒瓶を持ってやってきた。

「どうぞ、マルコ隊長。」

「すまねぇな。」
取り敢えず、ジョッキに酒を注いでもらう。

「その節は、ありがとうございました。」

「ああ。ま、これからは気を付けるこったい。」

「すみません。静かになったから大丈夫かと思って医務室を出てしまって…。」
まぁ、新人ナースにはよくある話だ。早く外のケガ人の手当をしたほうがいいんじゃねぇかって焦って出てきちまって、危ない目に合う。やる気がある奴ほどそういう目に合うから敢えて厳しいことはオレからは言わねぇ。どうせナース長あたりにこっぴどく叱られてるしな。若けぇ頃はつい強い口調で注意したこともあったが、うちの女隊員たちと違って泣き出したりしちまうから、その辺の「教育」はもっぱら先輩ナースたちの仕事だ。

「どうだい?海賊船生活にも慣れたかい?」

「はい。皆さんとっても優しいですので。わからないこととか本当に親切に教えて頂いて…。」

「先輩ナース達にいじめられたりしてねぇかい?」
オレがそう冗談を言うと、近くにいたベテランナースが

「ちょっと、マルコ隊長?今、何か言いました?」
と突っ込んできた。

「あ?この可愛らしいお嬢さんが怖い姐さん方にいじめられてんじゃねぇかって心配してんだよい。」
オレがふざけてそう言うと、

「え!そ、そんなことはないですっ!皆さん、本当に優しいんですからっ!」
と新人ナースが慌てて否定すると同時に、ベテランナースが

「マルコ隊長っ!すぐそういうこと言うっ!」
と笑いながらオレに文句を言った。こんな会話の後、オレの横に座った新人ナースにいつからモビーに乗っているのか、とか、上陸したら何をしてるのかなんて個人的なことを聞かれては答えを繰り返していると、こっちをチラチラと見ている若い隊員に気が付いた。そいつはオレと目が合うと、気まずそうに視線をずらした。
オレは

「ちょっと、すまねぇな。」
とだけ言って立ち上がると、オレと視線の合った隊員の肩を叩いた。

「後は任せたよい。」

「え?あ、あー、いや…。」

「オレはいつでもナースと話せるからよい。それに、あっちだってオレみてぇなおっさんと話すより、おまえらみてぇに若ぇのがいいんじゃねぇかい?」 

「そ、そんな…。」
そいつが恐縮しながらも満更ではなさそうに苦笑いを浮かべたのを確認すると、オレは名無しさんたちの方に向かった。
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