短い夢@

□いろんな隊長
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ペシン、という音とともに、後頭部に鈍い痛みが走って顔を上げると、ニヤッと笑ったマルコ隊長が

「さっさと食って、甲板掃除に行けよい。」
と言って去っていった。

「う、う、うるさいっ!お昼ご飯くらいゆっくり食べさせろっ!」
その背中に怒鳴ったが、あのパイナップルは振り向きもせずに食堂を出て行った。

「また叩かれたのか、名無しさん。」

「今日も仲がいいな。」
周りにいた1番隊の奴らが囃し立てる中、私は目の前の昼食をかきこんだ。
正直、マルコ隊長が好きな私としては、こうやって構ってくれるのは嬉しい。何かあると叩かれたり、ほっぺたを引っ張られたり。そんな「スキンシップ」(だと思うようにしている)の中で、100回に1回くらい、頭を撫でられたりするもんだから、私はそんなマルコ隊長に完全にやられちゃっている。でも、悔しいし、恥ずかしいから惚れてるなんておくびにも出さないように頑張ってるけど。
昼食を終えて、仲間たちと甲板掃除に勤しんでいると、

「ほら、まだ汚れてるよい。」
と言う声が聞こえて、頭がグラグラ揺れた。

「なんで私に言うんだよ〜。」
揺れる頭で抗議をすると、

「おまえの頭が一番掴みやすいんだよい。」
って笑い声が聞こえて、頭頂部からがっつり私の頭を抑え込んでいたマルコ隊長の手が離れた。くらくらする頭を押さえながら振り向いてマルコ隊長を睨むと、ニヒルな笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

(この顔、嫌いじゃないんだけどさ…。)
なんて思ったところで、今度はガシッと顎を掴まれた。

「顔もちっちぇから掴みやすいけどな。」

「いひいひちゅかまないでくははい。(いちいちつかまないでください)」

「あ?何言ってんのかわかんねぇな〜。」
ケラケラと笑うマルコ隊長に蹴りを入れようとすると、隊長は手を離して逃げた。

「おまえの蹴りが当たるわけねぇだろい。」

「掃除の邪魔するなっ!」
周りの仲間たちが笑う中で、マルコ隊長を後ろから蹴ろうと追いかけたところで、

「マルコ隊長?」
と隊長を呼ぶ女の声がした。
振り向けば、最近入った新人ナースが何か書類を持って立っていた。

「どうした?」

「すみません。ちょっとお伺いしたいことが…。今、ナース長が手が離せないみたいで。」

「ああ。なんだい?」
マルコ隊長はさっきまでのおふざけモードから仕事モードに切り替わると、新人ナースの手元を覗き込んだ。あの新人ナースはマルコ隊長に気があるのか、ここ最近よくマルコ隊長の前に出没している。もちろん、他のナースもマルコ隊長に用事があることもあるから、マルコ隊長に話しかけるイコール気があるってことにはならないんだけど、どうもこの新人ナースに関しては、私の女の勘が違うと言っていた。何だろう。マルコ隊長を見る顔とか仕草かな。どう見ても、恋する乙女なのだ。とっても可愛らしい子だから、周りにいる隊員たちの顔もにやけている。一方のマルコ隊長は、明らかに隊員とナースに対する扱いが違う。私の頭はまるでボールだと勘違いしてるんじゃないかってくらいペシペシ叩くくせに、ナースには絶対手を出さない。それどころか、話す口調も全然違う。

(…一線を引いてるって意味ならわかるけど、もし、これが『女だから』ってことなら、私は完全に女じゃないってことになるよね…。)
新人ナースに優しい笑顔を向けるマルコ隊長を視界に入れたくなくて、私は、さっき隊長に指摘された「まだ汚れてるよい」の場所をデッキブラシでごしごし擦りながら、まだ書類を見ながら話し込む二人から距離を取った。


食堂で夕食を食べていると、周りに座る男どもの会話が耳に入った。どうやら今日は飲み会があるらしいのだが、特にそんな話を聞いた覚えがなかったから、

「あれ?今日何かあったっけ?」
と聞くと、

「へへへ。ちょっと、ナースたちとな。」
と隣の奴が嬉しそうに言った。

「甲板で飲んでるから、おまえらも来いよい。」
ちょっと離れて斜め前の方に座っていたマルコ隊長がそんなことを言うもんだから、

「え?私たち、邪魔じゃない?」
と聞くと、

「広い甲板で飲んでるんだ。みんなで飲めばいいよい。」
と言ってくれた。

「わかった。サッチ隊長に差し入れ頼んでおきますね〜。」
と言うと、

「おぅ。任せたよい。」
とマルコ隊長が笑顔で答えてくれた。
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