短い夢@
□策士の恋
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荷造りを終えてモビーに戻ると、オレは名無しさんを連れて船長室を訪れた。
「おまえが名無しさんか。」
「人質の名無しさんです。よろしくお願いします。」
名無しさんがニヤッと笑ってオヤジにそう言うと、オヤジは豪快に笑って
「グラララ。おまえはもうオレの娘だ。何しろ、マルコが連れてきたんだからな。あの島のことは心配するな。これだけの宝を差し出したんだ。それに十分見合う見返りを提供してやる。…今までよく一人で守ってきたな。」
と言って、目を細めて名無しさんを見た。
「…ありがとうございます。」
嬉しそうにオヤジに頭を下げた名無しさんから視線を移すと、オヤジと目が合った。
「いい女じゃねぇか。泣かすんじゃねぇぞ。」
とオヤジは穏やかな顔をして言った。
多くの島民に見送られながら、モビーは出航した。
「こんなに盛大に見送られるなんて、オレら、本当に海賊か?」
ラクヨウが笑いながらそう言うと、
「に、してもひでぇな。あんなちっちゃな島から、こんな素敵なお嬢さんを攫ってきちまうなんて。おまえ、極悪人だな、マルコ。」
なんてサッチがおどけて言うから、オレは
「アホンダラ。オレたちは海賊だ。」
と言って、サッチのケツを蹴とばした。
「で?名無しさんちゃん料理ができるから4番隊だよな?」
サッチが蹴られたケツを抑えながらそう言った。
「あ?んなわけあるか。オレんとこに決まってんだろい。」
「おいおい。それとこれは別だろ?酒場を切り盛りしてたんなら料理もうまいんじゃねぇの?間違いなく4番隊だろ?あの島の特産品もたくさんもらったしな〜。どうやって調理するのか教えてもらわねぇと。」
「おいおい。もめるならうちで引き取るぜ。」
ラクヨウの野郎まで身を乗り出してきやがった。
「あああっ!もう!うるせぇよいっ!1番隊だって言ってだろいっ!」
「なんだよ、マルコ。ちっちぇな。ここはドーンと構えて他の隊に出せよ。」
「そうだ、そうだ。公私混同も甚だしいぞ。風紀が乱れるじゃねぇか。」
「何が風紀が乱れるだっ!だからオレ達は海賊だって言ってんだろうがっ!」
「あ!もしかして、名無しさんの配置か?今一番人数少ねぇの2番隊だぞっ!」
とうとうエースまで参戦してきて、オレが頭を抱えると、
「みんな、仲がいいんだね。」
と名無しさんが満面の笑みで微笑んだ。
===== おまけ ======
「…もしかして、また名無しさん取られたのか?」
オレが一人食堂で酒を煽っていると、サッチが隣に座った。返事をするのも面倒で黙ってグラスを空けると、
「まー、相手がオヤジだと文句言えねぇよな…。って言うか、名無しさんちゃんが完全にオヤジにはまったよな…。」
と言って、サッチがオレの肩に手を置いた。
そうなのだ。一度一緒に飲んでから、オヤジはことあるごとに名無しさんに呼び出しては一緒に晩酌をするようになった。名無しさんも名無しさんでオヤジの武勇伝を直接本人から聞くのは楽しいと、大喜びでその場に参加するようになっちまった。
「さすがに、寝るときは戻ってくるんだろ?」
「当たり前だよいっ!これでオヤジの部屋で寝泊まりするようになったら、さすがに黙っちゃいられねぇよい。」
オレがガンとグラスをテーブルにたたきつけると、
「ま、可愛い娘ができて嬉しいんだろーよ。」
とサッチが苦笑いした。
「オヤジもオヤジだよい。オレたちが聞いたことねぇような話まで名無しさんにしてやがる。」
「…おまえ、オヤジに嫉妬してんのか?それとも、名無しさんに嫉妬してんのか?」
「どっちもだよいっ!」
オレがそう叫ぶと、サッチは呆れたような顔をして
「おまえの意外な一面が見られて、オレは嬉しいよ。」
と言って去っていった。