短い夢@

□守らねぇ
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会計を済ませて店の外に出たところでオレは名無しさんに声をかけた。

「モビーに戻んのかい?それとも、どこかに泊まるのか?」

「モビーに戻ります。マルコ隊長はどうされますか?」

「オレも戻るよい。出航前にいろいろやらなきゃならねぇ。」

「…サッチ隊長はその辺で遊んでるのに、マルコ隊長は大変ですね。」

「…あいつと一緒にすんなよい。」
クスクスと笑う名無しさんと歩きながらモビーに向かう。歓楽街のはずれに差し掛かったところで、急に周りの雰囲気が悪くなった。だが、名無しさんは動じる様子は全くなかったから、オレも大して気負わずに歩いていた。と、そこで、前から「いかにも」な感じの男たちが三人、横に並んで道を塞ぐように歩いてきたかと思うと、ニヤニヤと品定めするように名無しさんを見た。

(面倒くせぇよい…。)
そう思いながらも、チラリと名無しさんを見れば、困ったというよりは呆れたような顔をしている。

「姉ちゃん、そっちに行っても何もねぇぜ。いい店知ってるからオレらと一緒に来いよ。」
三人の真ん中にいた一番体の大きな男がそう言うと、名無しさんはブスッとした顔で

「何もなくないです。船に戻るんで。」
と言った。

「船?船なんかに戻らねぇで、オレたちと宿取ろうぜ。」

「結構です。」
そのまま前に進もうとすると、3人の男たちが目の前に立ちはだかった。

「なぁ。そんなオレらにビビってなんも言えねぇ奴なんてほっといて、オレらと遊ぼうぜ。」
真ん中の男がそう言うと、横にいた二人もゲラゲラと品のない笑い声をあげた。名無しさんはオレに「どうしましょう?」とでも言いたさげに振り返った。

「そういやぁ…。最近四番隊との合同訓練がねぇから、おまえがどんだけ強くなったのか知らねぇな。せっかく手加減しねぇで実戦練習ができるんだ。どんなもんか見せてくれよい。」
オレがそう言うと、名無しさんは目をぱちくりさせたが、すぐにさっきも見た「いい顔」で笑うと、

「マルコ隊長の許可が出たので、全力で頑張らせていただきます!」
と言って、指をパキっと鳴らした。

「はぁ?なんだ?姉ちゃんがやんのか?」

「おいおい。そっちのガタイのいい野郎は見てくれだけか?」
ますます品のない声で笑い転げる男たちを見てニヤリと笑うと、名無しさんは、

「行きます!」
と言った瞬間、真正面にいた真ん中の男めがけて突っ込んでいった。

(早くなったな。)
オレがそう思った瞬間、バキッという音が響いて、真ん中の男の体が傾いたかと思うと、そのまま大きな音を立てて仰向けにぶっ倒れた。

「お。いいパンチだよい。」
顎へのきれいな一発。無駄な動きは一切ない。

「こ、このアマぁっ!」
慌てて右側に立っていた男が襲い掛かるが、すかさず鳩尾に名無しさんの蹴りが入る。ほぼ同時に殴りかかってきた左側の奴のパンチを上半身をそらせてかわすと、そのまま名無しさんの左アッパーが男の顎を捉えた。蹴りを食らった奴は腹を抑えてうずくまっていたが、パンチを食らった二人は完全に意識がなかった。

「腕上げたな。一発で仕留めるとは思わなかったよい。」
名無しさんの背中にそう声をかけると、誇らしげに微笑んでいるだろうと思った名無しさんは、思いっきり不満気な顔をして振り返った。

「…マルコ隊長、ちょっと私を見くびり過ぎじゃないですか?弱すぎですよ、こいつら。」
そう言ってから、前を向くと、

「もうちょっと見せ場作ってくれないと困るでしょ?一発で倒れるってどういうこと?」
とまだ足元でうずくまって奴に文句を言った。
オレは笑いながら名無しさんに歩み寄ると、肩に腕を回して、

「おいおい。可哀想だからそっとしておいてやれよい。」
と言いながら、名無しさんをモビーの方へと促した。

「だって、あれじゃあ…。」
ほっぺたを膨らませて抗議をしようとする名無しさんに、オレが笑いをこらえながら

「わかった、わかった。今度合同稽古をしておまえの本当の実力を見せてもらうよい。」
と言って、小さな子供をなだめるように頭をポンポンと叩くと、それがまたお気に召さなかったのか、名無しさんは口をとがらせた。たった今柄の悪い男3人をノックアウトしたとは思えない表情に、オレはとうとう声を上げて笑った。

「全く、おまえは本当に頼もしいよいっ!ますます惚れ直したっ!オレの女はこれくらいじゃねぇと務まらねぇよいっ!」

「ちょ、ちょっと、マルコ隊長!笑いごとじゃないですっ!って言うか、全然褒めてなくないですか?」
顔を真っ赤にしながら抗議する名無しさんを笑いながらなだめていると、困ったような顔をしたまま、黙りこくってしまった。機嫌を損ねちまったか、と心配になったところで、ちょうど港に着いた。とりあえず、明日は出航だから、今日はゆっくり休めとでも声をかけようと思った時だった。

「マルコ隊長。」
ずっと黙っていた名無しさんが口を開いた。

「その…。食事の時に言ってたことは本気ですか?」

「…。本気だよい。」
そう答えたオレを名無しさんは射貫くようにじっと見る。

「それに、さっきも言ったろい。惚れ直したってな。」
名無しさんはオレを見据えたまま、

「私、海賊っぽく見えないせいか、仲間と一緒に歩いててもよくからまれるんです。でも、みなさん、必ず守ってくれるんです。『おまえは下がってろ』って。だから、実力を見せてくれ、なんて言われたのも、一切手を出すことなく後ろから見守られたのも初めてです。」
と言った。

「きっと、マルコ隊長と一緒に街を歩いたら楽しいだろうな、って思いました。」
満面の笑みで物騒なことを言う名無しさんに、思わずオレはため息をついた。

「オレだって、チンピラにからまれて楽しいって、目を輝かす女なんて初めてだよい。」

「ダメですか?」
そう言って首を傾げる名無しさんに近づくと、オレはその頭に手を置いた。

「いや。言ったろい。オレの女はこれぐらいじゃねぇと務まらねぇよい。」
嬉しそうに笑顔でオレを見あげる名無しさんの頬に手を添えると、オレはそのまま名無しさんに口づけた。

「選んでもらえて光栄だよい。」
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